医療機器開発に関する近刊書籍が示唆する共通項

2016/07/22 16:00
久保田 博南=ケイ・アンド・ケイジャパン 代表取締役社長(医工連携推進機構 理事)

 このところ、医療機器に関わる書籍が相次いで刊行されている。これらを医療機器開発という一つの断面から読み解くと、「日本独自の」という枕詞が共通項として見えてくる。同時に、「若い開発者や医療従事者、さらには起業家に読んでほしい」という著者・編者・訳者の共通の意思が垣間見える。以降では、これらの共通項にも注目しながら、順を追って紹介していきたい。

日本型ベンチャーキャピタルの活用法

『医療機器開発とベンチャーキャピタル』(大下創・池野文昭著、幻冬舎)

 2016年3月に刊行された『医療機器開発とベンチャーキャピタル』(大下創・池野文昭著、幻冬舎)は、主として米国での実績をもとに、開発政策面での日米格差について論じている。本コラムで1年ほど前に紹介した書籍『バイオデザイン』では、スタンフォード大学での医療機器開発の実情が記述されているが、本書ではタイトルのとおりベンチャーキャピタルに重点を置いている(関連記事)。共著者の池野氏は、このバイオデザインの主幹編集者でもある。今回は、その総合的施策の中からベンチャーキャピタルという主題を抽出した感がある。

 論点は、日本における最先端医療機器開発が米国に追従できない理由の一つが、ベンチャー企業の開発体制不備だというもの。ここに「開発のエコシステム」というフレーズを投入し、我が国にもその普及を促進したいという意図だ。書籍の中では、いくつかの具体例を示しながら、日本型のベンチャーキャピタルの活用方法を提案している。

 現況を考えるにつけ、このタイプの医療機器開発体制を日本で築くにはかなりの年数が必要との認識もある。ただし、時間がかかるからといって、今から手を打たなければ時代遅れにもなりかねない。その観点から現状を分析するためにも、現役の医療機器関連の起業家たちには大いに参考になるだろう。

「日本語訳」から「日本人向け書物」へ

『麻酔の偉人たち』(J.R.Maltby編著、菊池博達・岩瀬良範訳、総合医学社)

 2016年5月に刊行された『麻酔の偉人たち』(J.R.Maltby編著、菊池博達・岩瀬良範訳、総合医学社)は、麻酔・手術関連手法・機器群の開発に関わる翻訳本である。もちろん、原著は外国人の執筆であり、欧米人の麻酔に関わる歴史的な功績を伝えることを主目的としている。

 その中でも、医療機器産業界にとって現在でも重要な位置付けにある機器類や手法は、現実的な日常業務の中に「新しい発見」のヒントをもたらしてくれる。具体例を出すと、人名が機器名や手法に冠されている人たちの貢献度が現実的な感銘につながる。スワン・ガンツカテーテル、マギル鉗子、セヴェリングハウス電極といった著名な機器についての知られざる逸話が目を引く。

 原著者の意図は、これらの偉人たちが実際にはどのような人物で、いつどこで仕事をしたか、なぜ作り上げられたか、というような名祖としての貢献度を示すことにある。つまり、‟先人の知恵”を現代の医療機器開発につなげたいという意思だ。

 圧巻は、日本語訳のみに付け加えられた「パルスオキシメータの発明者(青柳卓雄)」と「経口麻酔薬〈麻沸散〉の開発(華岡青洲)」の項だ。原著者の了解のもとに追加掲載されたとの記述があるが、これが「日本語訳」だけでなく、「日本人読者」に向けてのインパクトを与えるに十分な役割を演じている。両者のアイデンティティーが見事に再現されているからだ。

 このお二人については、すでに国内だけでなく、世界的にも広く知られた存在となっている。今回、幾多の偉人たちに混じっているが、日本にも「固有の技術や手法」が存在するという輝きを放っている。

キッカケは偶然の「再会」

『生体情報モニタ50年』(久保田博南著、薬事日報社)

 最後に、やや宣伝にもなってしまうが、筆者が執筆した『生体情報モニタ50年』(久保田博南著、薬事日報社、2016年5月)に触れたい。本書では、生体情報モニタの歴史とこれからの展望を述べた。執筆の契機となったのは、1年ほど前に日経デジタルヘルスに掲載された「『生体情報モニタ』開発物語」という記事だ。

 この記事はドキュメント作家・福山健氏の執筆で、世界初の生体情報モニタMBM-40の開発経過などが描かれている。これを知った開発会社・日本光電工業から、「(世界初の生体情報モニタの)実物が神戸の麻酔博物館に現存する」という事実を知らされた筆者は、実に50年ぶりに「再会」を果たした。

 当時、本製品の開発に携わっていた筆者は、この偶然の再会を記録に残したいとの思いを持つに至り、それが本書執筆の契機となった。だが、それだけでは一冊の本にならないと考え、この半世紀に及ぶ、生体情報モニタの開発にちなむ歴史を時系列的に列記することにした。

 内容としては自伝的な要素を含みつつ、一つの医療機器としての商品開発過程を詳述した。今、日本固有のオリジナル製品が少ないといわれている業界としては、かなり珍しい開発サンプルということにもなる。しかも、このストーリーが現在進行形という継続性を有していることから、現在の産業界が抱える「ものづくり」「ひとづくり」の課題に対する参考資料となると願っている。