“医療機器一斉点検”はありえない

2016/07/06 00:00
久保田 博南=ケイ・アンド・ケイジャパン 代表取締役社長(医工連携推進機構 理事)

 大山鳴動して鼠1匹ならぬ、「大山鳴動してゴキブリ2万匹」とでもいったらよいのか。3万件の医薬品を総ざらいした結果、約2万件の不備が見つかった医薬品一斉点検(関連記事)。これは、容易に想像可能な範囲であったものの、医療機器業界にとってもただごとというわけにもゆくまい。それより、問題の本質はどこなのか。その勘所に迫ってみたい。

単純な推定から想像できること

 医薬品の10倍規模の品目がある医療機器について、同様の点検が実施されたらどうなるか。おそらく、医薬品よりも1桁多い問題点が出てくるだろう。

 しかし、医療機器に同様な措置が取れるはずもない。それは、非常に単純な理由だ。30万種類という品目数の膨大さは、想像を絶する。その一つひとつにぶら下がる、ドキュメント類の多様さ、複雑さを考えるだけで、ことの重大さを痛感する。その労力たるや官民双方にとっても非現実的であることも、容易に想像できる。

 しかし、このままでいいのかどうか。というよりも、どうすればよいのか、そこを考えるのが一番の勘所となる。こういう現実に直面していて、何も考えないこと自体に大きな課題が存在する。まずは、身動きがとれない状況を生み出した元凶を突き止める必要がある。

QMS省令とQMS体制省令の重なり

 一つだけ具体例を示しておこう。

 薬機法での根本的な規制に関わる問題点として、日本の医療機器認証・承認体系が多重構造になっていることが挙げられる。認証・承認体系については、業許可(登録・届も含む)と品目承認(認証・届も含む)があるが、前者でいうなら、製造業・製造販売業・販売業・修理業など、個々の認可を取得する必要性とその管理には負担が多い。

 このうち、最も重要な業態である製造販売業を見ていくと、QMS省令とQMS体制省令、GQP省令に基づくがんじがらめの体制と運用が義務付けられる。QMS体制省令は、2014年11月から施行された薬機法で加わったことは記憶に新しい。ただし、それを説明する規制側の説明に、何がどうなるのかが分からなかったことも事実。おそらく、これをもとに運営・維持活動を遂行している実務担当者でないと、そのことの重大さが認識できまい。

 課題を浮き彫りにするため、「QMS体制チェックリスト」の実例を見てみよう。この11ページからなるチェックリストが新しく加わったと思えばいい。書いてあることの重要性は理解できるが、被規制者側の苦労を代弁するなら、これだけの作業が追加されたというわけだ。

 具体的に、クラスⅡの認証機器を保有するケースではこうなる。(1)QMS体制省令による監査が都道府県により実施された直後、(2)第三者認証機関からQMS省令に基づくサーベイランスなるものが立て続けに入る。「えっ、またなの?」ともいうべく“多重審査”に接して驚きを隠せない。

そろそろ、真の簡略化の動きを始めないと

 医療機器と医薬品の根本的な違いについては、これまでも種々の場面で指摘してきた。中でも、その品目数の違いはもとより、それぞれの機器の多様性などから、一つの法律で縛ることの難しさも訴えてきた。

 今回の医薬品一斉点検の方式が医療機器には適用できないだろうと思うのは、申請書類にしろ、QMS文書にしろ、あまりにも膨大に膨れてしまって、もはやコントロール不全の状況にまで到達していると推定されるからだ。規制緩和の掛け声とは裏腹に、製造販売業者に対して、これほど膨大な文書類の管理と運用を求めても、「現実的には無理難題」であることが偽らざる実態である。

 もう一点だけ、現実を示しておこう。クラスⅡの「品目認証基準」というのが1000に近い数で発出されている。どれもが数十ページに及ぶ基準であるが、多くの共通項からなっていることが分かる。異なっているのは、品目の特性の部分くらい。それなら一層、共通項だけ抜き出して一つにまとめ、品目特性の部分だけを別にすれば、すっきりとした体形ができあがるはずだ。

 こんな話を書かなければならないことが残念だが、あまりに非能率的な規制体系は、根本的に見直さないといけない。法規制を複雑化することによって危惧されるのは、官民双方のコントロール不能状況だ。規制当局には一度、当事者側の実情を見てもらいたい。同時に、その問題点の回避策を講じ始めるときであることを認識してほしいものである。