病気と健康の境界を探る

『ヘルスケアを支えるバイオ計測』に見る最新動向

2016/04/26 00:00
久保田 博南=ケイ・アンド・ケイジャパン 代表取締役社長(医工連携推進機構 理事)

 体調不良から病気に進行すると、その症状や医療機器などによる検査結果に基づいて担当医師から“病名”が与えられる。病気の発症以前と健康の間には、正常値からやや外れた不安定な状態が存在する。そうしたボーダーラインをターゲットとした生体計測技術は最近の注目テーマの一つだ。

高度なヘルスケアの実現へ

 これまで、生体計測技術の進展については、本コラムの中で度々触れてきた。現時点において、人体の生理的な変化や現象を捉えることで、「活動量」「心拍数」「脈拍」「体重・体脂肪」「血圧」などが不完全とはいえ測定可能な領域に入っている。これらの各個人の数値を、統計的な手法で得られた正常値としての指標と比較して、独自のヘルスケアを行っている人も多くなっている。

 だが、病気と健康の間には不安定な状態が存在し、特定の数値の上昇・下降だけが病気を決めるとも思えない。そこには当然個人差もあるため、人並み以上の血圧値を有していても「高血圧症」とならないケースもある。

 もちろん、血圧だけで健康だ、病気だ、と言い切れないのも事実。上記の測定可能数値だけでなく、これまで測定不能、あるいは難度が高いとされてきた計測技術も、総合的な「健康度」の断定には必要とされてきている。

 例えば、人体から分泌・排出される物質、いわゆるバイオマーカーから得られる数値の把握にも多くの機関が関わっている。それらによる有用なパラメータ計測が実現すれば、より精度の高いレベルでヘルスケアが可能になると推定されているからだ。

 また、個々人のヘルスケアは、全人口の統計的な指標判断からリアルタイム生体情報データのビックデータ解析にシフトし始めている。医療機器や医薬品での診断・治療だけでは、広義のヘルスケアにはならない。新しいヘルスケア機器による計測結果は、個人の運動・食事への提案でもあり、日常生活へのフィードバックによって病気を未然に防ぐ重要なツールとなりうる。将来的には、個人が“健康”であることの証として、また、病院に通う必要がない状態を把握するためにも、ヘルスケア機器による数値判断が可能となる日がくるかもしれない。

「血糖値」の簡易計測が焦点に

『ヘルスケアを支えるバイオ計測』(シーエムシー出版)
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 これまで、健康のバロメータとして利用されてきたパラメータに加え、最近、特に注目されているのが、血液を中心としたバイオマーカーへのアプローチだ。血液成分を分析し、物理・電気化学的な指標をもとに病気の診断をする手法はごく一般的に行われている。その上で、唾液や汗、涙液などの体液を分析する技術も数多い。

 これらの研究・開発をヘルスケアに生かす、いわゆる“バイオ計測”の実態が明らかにされつつある。この度発刊された『ヘルスケアを支えるバイオ計測』(シーエムシー出版)には、その最先端の研究内容が紹介されている。

 下表は、本書に紹介されている代表的な記事と著者名だ。明らかなのは、「センサー」のテーマが目白押しであることだ。もちろん、編集者側の意図としてそこに焦点を合わせたことは理解できても、読者側のニーズが反映されていることも見逃せない。特に、グルコースセンサーのテーマが圧倒的に多い。つまり「血糖値をいかに簡単に測定するか」という命題が近年の最優先課題だという認識を新たにする。

代表的なセンサーなどを『ヘルスケアを支えるバイオ計測』の目次から抜粋、発行元の許可を得て筆者が作成
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 もっとも、非観血で誰でも簡単に測定できる技術は、おいそれと事業化に到達できるようなものではない。ただ、これだけ世間が求めている技術なら、「近い将来必ず」という期待も大きい。

 これまで、ヘルスケアといえば脈拍数、血圧、運動エネルギーなどから「健康の正常値」を得ていた。しかし、これからは、そこに血中酸素飽和度や血糖度なども加わってくる確率が高い。それにより、より高度なヘルスケアが実現でき、その関心度が増進していくことも容易に予想される。病気になる前の健康の維持・対策のために生かせる計測技術の研究とその応用展開に期待したい。