2016/03/28 00:00
久保田 博南=ケイ・アンド・ケイジャパン 代表取締役社長(医工連携推進機構 理事)

血中酸素飽和度(SpO2)が90%を下回ると呼吸不全と判断されるレベル。上空1万mを飛行する旅客機内でパルスオキシメータを使ってみると、地上での値に比べ最大で10%低下する値を示した。JAL(日本航空)では、乗客の不測の事態に備え、呼吸・循環の状態が把握できるパルスオキシメータを2016年1月より国内線・国際線全機(他社運航コードシェア便を除く)に搭載している。

上空で血中酸素飽和度を実測

 LCC(Low Cost Carrier)をはじめとする格安航空券などの普及により、誰もが気軽に海外旅行に行ける時代になった。今回、当社社員の海外出張に当たり、羽田を深夜に出発する国際線内で、血中酸素飽和度の測定を行わせてみた。測定には、日本精密測器製の携帯型パルスオキシメータを用いた。

 搭乗前と飛行中に測定したところ、かなりの血中酸素飽和度の濃度の低下がみられた。機内では、高度上昇に伴い酸素濃度低下の影響を受けているからだ。

左から、離陸直後、離陸1時間後、離陸5時間後(瞬時値)。上が脈拍数で、下が血中酸素飽和度
クリックすると拡大した画像が開きます

 離陸直後の測定値は98%で、地上での測定値と変化はなかった。しかし、離陸1時間後の巡航高度においては、測定値が93%程度に低下した。さらにアルコール摂取、仮眠後の離陸5時間後の測定では、瞬時値として88%を示し、地上での測定に比べて約10%の酸素飽和度の低下を示した。これは評価値としての90%を切ったことを示し、呼吸不全と判断されるレベルに相当する。

 また、アルコール摂取後にトイレに立ったときの心拍数が105bpsを示していたという。これは、体内に十分な酸素を供給するために心拍数を上昇させる補完機能の可能性もある。いずれにせよ、10%もの血中酸素飽飽和度の低下は、人体にとって同等の身体運動を行なうケースに例えられ、血流を増やすことで酸素を多く体内に供給し、不足した活動分を補う。

 このような酸素量の低下や心拍数の上昇を見ると、急激な身体運動の変化による体調の異変リスクにもなりうる。身体的に心臓や肺に負担がかかるうえに、航空機の揺れにより驚くことで心拍数が上昇することもあり、さらには、エコノミークラス症候群による血栓症を誘発する危険性もある。誰もが足のむくみなど、明らかな体の変化を感じているはずだ。

医師会と提携

 こうした不足事態に対応するため、いくつかの取り組みも始まっている。たまたま前出の社員が乗り合わせた機内で、JALの機内誌「SKY WARD」3月号をめくっていたら、“今使っている”パルスオキシメータが紹介されていたので、かなり驚いたらしい。記事のタイトルは「JAL DOCTOR登録制度のスタート」。その記事の中に、2016年になってパルスオキシメータの搭載を始めたという記述を見つけたからだ。

 この記事の主テーマは、2016年2月からスタートした医師登録制度の話。日本医師会が発行する「医師資格証」をもったJMB(JALマイレージバンク)会員が、医師であることの情報を登録することで、飛行中の急病人に対応することを想定したリスクヘッジである。

 「ご搭乗のお客様で、お医者様はいらっしゃいませんか?」という機内アナウンスは、搭乗中にもよく経験する。また、映画やドラマによく使われるシーンでもある。こうした事例が日常的に多く発生していることの証であり、その対応策が必要になっていた。

 機内で急病が発生した際に客室乗務員が登録された医師に直接声をかけ、場合によっては救護のために搭載されている医療機器を活用する。医師が機内に不在の場合はこれらの機器を用いて地上との無線通信により、医療機関に状況を伝えて助言を得る。こうした体制が備えられつつあるのだ。

航空機内に常備される医療機器

 JALでは1993年以来“ドクターズキット”と称する医薬品・医療機器を搭載し、機内で病気になった乗客に対して処置が行えるようになっている。1998年にAEDを初めて航空機に持ち込む試験をしたのを契機に、2001年10月には国内線・国際線全機への搭載が始まった。

 前出の2016年1月からのパルスオキシメータの搭載と同時に、電子血圧計の国内線・国際線全機への搭載も始まった。今後も、搭載機器の種類が増えて、さらなる安全確保が目指されそうだ。

主な搭載機種と搭載時期
クリックすると拡大した画像が開きます

 こうした環境が整えば、機内での乗客の健康管理は一段と進むだろう。それにより、乗客の自己管理を促すことにもつながり、旅行中のトラブル減少も目指せる。こうした機運は、JALだけにとどまらず航空機業界全体での取り組みに発展することが重要で、それにより安全性の高い渡航が実現可能となる。今後は、この事例を契機に、世界的にもこのようなインフラ整備や設備投資への期待が高まる。