リスクマネジメントの本質を問う医工連携

東日本大震災から6年、今考えるべきこと

2017/03/06 10:00
久保田 博南=ケイ・アンド・ケイジャパン 代表取締役社長(医工連携推進機構 理事)

 大学発ベンチャーや国家プロジェクトによる医療機器開発は、ハイテク技術を利用した“革新的”機器開発のテーマが多い。しかしながら、真に必要とされる製品は、必ずしも革新性や新規性だけが重要というわけではない。東日本大震災から6年、大型医療機器等を対象としたリスクマネジメントの好例として、転倒防止機構に注力した製品例を紹介したい。目立たない製品であっても、いのち守ることを最優先に考えられた事例がここにある。

真のリスクマネジメントとは何か

 東日本大震災からの6年、人間のいのちを守ることの大切さを再認識させられた時期だったといっていい。特に、人のいのちと真正面から向き合う「医療機器」は、たとえ大地震であっても動作不能に陥ってはならない。いわば“停まってしまった”では言い訳のきかない製品でもある。

 写真1に示したのは、四六時中、稼働し続ける人工透析の輸液供給システムだ。このシステムには、耐震装置が設備されており、強度の地震にも耐えられるようになっている。この耐震装置はメーカー純正ではなく、後から設置されたものである。

写真1●提供:山東第二医院(新潟市)
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 実際、これで補強された製品は、東日本大震災の際の強振にも耐え、転倒を免れたことで注目された。人工透析装置や人工呼吸器などは、止まったら最後、何人もの患者のいのちに関わる。装置そのものがいのちを救うための機器であるゆえ、その性能・機能を維持し続けるのはもちろんのこと、いかなる状況下でも稼働し続けるべき宿命を担っている。

 本設備に組み込まれているのは、最新鋭とかハイテクという技術とは無関係。いうなれば、地道に現場に足を運んだことにより得られたアイデアと、臨床現場の生の声から生まれた単純な製品といえる。それゆえに、大企業や医療機器専門メーカーが手の出しにくい分野なのかも知れない。

 逆に言うなら、こういう分野こそ、中小企業やベンチャーの出番なのだ。医療側からすれば必須な製品なのに、誰も参入しようとはしない。なぜなら、採算性が未知、販売台数にも制限があるような機器は、専門メーカーも二の足を踏んでしまうからだ。

 しかし、よく考えてみてほしい。医療機器業界において普遍な思想として力説されている、本来の“リスクマネジメント”は、こういうケースを基本とするのが本質だろう。日常的に言われるQMSとか、リスクマネジメントというのは、こういう事態になって初めて真価が問われる。そのための対応策の好例を、ここに見る思いがする。

取り組んだのはベンチャー企業

 この透析用輸液供給システムを支えている耐震装置は、ベンチャー企業のアイエル(石川喜久社長)が製造販売する「プロゲルⅡ」という製品だ。

 写真2はこの装置の拡大部分。ここが大型の生命維持装置を支えている。

写真2●プロゲルⅡ
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 プロゲルⅡの根幹技術となっているのは「粘着ゲルマット」と呼ばれる部材であり、この部分に耐震特性が宿る。対応荷重800kgを有し、耐震特性を具備する素材でもある。石川社長の話によれば、この耐震装置が付加されている機器は、全国で累計約4000台に及ぶ。6年前の悪夢の際にも、プロゲルⅡが装備されている装置の転倒事例は1件もなかったという。

 現在、多くの企業がハイテクを基に医療機器開発を目指す中、医療現場(臨床工学士)のニーズは、むしろローテクでも十分間に合う。アイエルも、これまでは主に臨床工学技士と共に現場ニーズの隙間を狙って商品開発をしてきた。最初の商品開発は、2000年頃騒がれた東海地震説により、「静岡県はいずれ大きな地震災害に見舞われる」という想定のもとに、病院内の医療機器の転倒防止器具を開発したのだ。最初は検査室のテーブル上の機器用に固定器具を作ったが、当時はそれほど関心を呼ばず、鳴かず飛ばずの売り上げだったという。だが、2005年に透析装置用の床固定器具を開発してからは、まず1社の採用を突破口に、少しずつ認知されたことで緩やかに全国に普及したのである。

参入が難しいといわれる医療機器業界だが…

 近年では、全国各地で「医工連携」をキーワードに、医療機器業界に夢を抱いて参入する企業が増えてきている。

 しかしながら、企業として生き残りをかけ医療業界に活路を見出そうと夢をもって参入しても、商品化までには法律の壁が高く、開発を断念する企業も多発しているのが現実の姿だ。医療機器を専門に扱わない企業にとっては、医療機器業界の基本となるタームさえ理解するのが難しい。

 例えば、「製造業」「製造販売業」「販売業」「QMS」「ISO13485」「ISO14971」など、医療機器業界に籍を置く者にとっては当たり前ではあっても、それらの理解からのスタートを強いられる。さらに個別の製品に対する要求事項や、表記事項など細かいルールについて知識がないままでの参入は、単独での参入はほぼ不可能に近い。

 そんな中、医療機器周辺設備に着目し、医療機器にさらなる安全性を付与したのがこの地震対策機器だ。開発した製品は、法規上の医療機器ではない。しかし、いのちに関わる重要な機器の安全性を高めるために、真のリスクマネジメントを実施し、医療現場の安心を得る製品となった。

 まさに、医工連携の手本のような事例であり、目の付けどころが違う、ベンチャーの参入事例としてうってつけの製品だ。医工連携や新規参入、そしてQMSやリスクマネジメントの本質を見直すきっかけを示してくれる好例でもある。