ワイヤレス医療機器、事実上の自由化へ

2016/02/17 00:00
久保田 博南=ケイ・アンド・ケイジャパン 代表取締役社長(医工連携推進機構 理事)

 一般環境におけるワイヤレス通信技術の発展はとどまるところを知らない。携帯電話事業者各社は通信速度を競い、ユーザーの確保にしのぎを削っている。Wi-FiやBluetoothに代表される無線通信も身近になった。そんな中、当然のことながら医療機器とワイヤレス技術の融合にも多大な変化が見られる。

規制に変化が

 最近の薬機法(医薬品医療機器等法)の規制条項に、大きな変化が出てきた。2015年11月、「高度管理医療機器の認証基準に関する取扱いについて(その4):薬生発1118第1号」の通知で、生体情報モニタの主要評価項目の中に、その波及が読み取れる。

 そこには、ワイヤレスによる送・受信機能について、「医療用テレメータの取り扱いについて」(400MHz帯の条件)のほかに、「上記(医療用テレメータ)以外の無線通信:電波法を遵守すること」の文言が付加されている。この話は、ごく最近、業界関係者との会合の席で知らされた。

 これまではというと、医療機器に使用できる無線周波数帯は「医療用テレメータ」として特定小電力無線局(400MHz帯)と微弱無線局に限定されていると考えられていた。400MHz帯では片側通信(単方向通信)の規定があり、微弱無線局は電波が弱く、ナースステーションなどにモニタ情報が届いていない可能性などの指摘があった。

 ところが今回の通知では、“電波法を遵守さえしていれば、医療機器にもISM帯などの使用が解禁された"と受け取れる。ISM帯とはIndustrial, Scientific and Medical Bandの略で、医療用装置やアマチュア無線、電子レンジなどの機器に対して、国際的に多目的用途に割り当てられた周波数帯域だ。

 これまでも筆者は、本コラムの中でも何回かに渡ってワイヤレス医療機器をめぐる弊害については指摘してきた。例えば、「どこへ行く? 我が国の医療用テレメトリー」(2013年5月29日付)では、現状と規制側の乖離を訴えた。「開発ラグ」を生み出さないよう「警告」もしたつもりだ。

 筆者にしてみても、「寝耳に水」の感がぬぐえないが、遅まきながらもこの実情が理解され、規制条項を解除した担当機関に感謝している。ワイヤレス機能は医療機器全般についての共通項目であり、生体情報モニタに特化したものではないだけに、この規制緩和は広い範囲に及ぶと解釈される。28年前の規制である「片側通信・微弱な電波」に限定されない現代の多様な電波利用方法に、ようやく法律が追従したかたちになる。

産業界では既成事実なのに

 2007年、ベンチャー企業が開発した「心電図トランスミッタ」が、初の2.4GHz帯(ISM帯)使用のワイヤレス医療機器としてPMDAの承認を得た。当時は、この機種に関しての認証基準さえ存在してなかったことから、クラスⅡの製品であってもPMDAによる承認申請の必要に迫られた経緯がある。

 この世界最軽量の心電図トランスミッタの承認取得ができたことで、“400MHz帯・微弱無線”の足かせが取り払われたと解釈していた。電波法と薬事法(現・薬機法)の両立性を示すことによる、日本初の“脱400MHz帯”のワイヤレス医療機器となったのだ。

 その後、各社・各製品に反映され、2.4GHz帯やその他の周波数帯を利用するワイヤレス医療機器が登場し、これが既成の事実となっていた。ところが、この状況が生体情報モニタ関連の認証基準には反映されない状況が続いていた。ここにきて、実情にマッチするように、法律が追いついてきたというべきかもしれない。

ISM帯などのさらなる展開分野

 「医療用テレメータ」の縛りのない、ISM帯を利用したワイヤレス医療機器が海外メーカーにて製造されるようになって久しい。当然のことながら国内導入を試みる業者が現れたが、この「医療用テレメータ」問題により導入を見送った企業も多かった。これらは、固定観念から脱却しきれず、また問題解決を試みない事例でもあり、国内の医療技術の発展を妨げた一つの要因ともなった。

 ワイヤレス技術は「通信」に留まらず、携帯電話の非接触充電に代表されるISM帯を利用した「給電」にも応用され、誰もがごく一般的に利用している技術でもある。この電波帯域を医療技術のために利用しない手はない。

 例えば、エネルギーを搬送するのに適した周波数帯がある。今後の国内流通が期待されるが、ワイヤレス型のモニタ機能付きコンタクトレンズ「Triggerfish」(スイスSENSIMED社)や、日本では同じく外部から給電・回転制御などをするワイヤレス内視鏡「NORIKA」(アールエフ社)などがその代表例だ。

 これらの機器は、外部からの給電により作動するバッテリーレスのワイヤレス医療機器であり、体内に残ったままのバッテリーの安全性などを勘案すると、これに代わる新たな医療機器として大いに活躍の場が期待できる。ワイヤレス医療機器のうち、遅れている分野を取り戻し、新たな無線通信技術と医療機器の融合によって、治療や診断技術の新たなる展開を願っている。

 次回は、米国でのワイレス医療機器の事例を紹介する予定である。