自分がやらなくても誰かがやる

 ただ、喜んでばかりもいられません。産業界にとっては、自動運転の実用化と普及は、自身の存亡を揺るがしかねない、戦慄すべき大変革でもあるのです。

 その動きのど真ん中にいるのが自動車メーカーでしょう。クルマというものが、BtoCの商品からBtoBの製品になる。これだけでも対応は大変です。動力も変わるでしょう。ガソリンから、無人でのエネルギー補給が容易で、構造が単純=コスト削減が見込める電気自動車へのシフトが進むでしょう。

 さらに恐ろしいのは、どこから誰がライバルとして出現してくるかわからないということです。「技術が変わればプレーヤーも変わる」ということは、私たちがこれまで何度も目にしてきたことです。新規参入が少ない自動車産業にあって、「自分たちがやらなければ前には進まない」という状況が長く続いてきました。けれどもこれからは、「自分がやらなくてもほかの誰かがやってしまう」ことになるわけです。

 自動車に関わってきた業界も、大きな影響を受けるでしょう。自動車メーカーと直接取引をしてきた産業分野にはじまり、運輸、物流、流通小売、保険、医療、警察、消防などの公共サービスなどにも及びます。

 再度例を挙げてみましょう。戦艦大和は、厚い鋼板に覆われています。砲弾が当たった場合の影響を小さく抑えるためです。では、今日の軍艦はどうでしょう。イージス艦などは、実は一発の砲弾で破れてしまうほどの装甲しか持ちあわせていません。なぜか。それは、「事前にリスクを察知し当たる前に対応するから」なのです。

 その考えに立てば、自動車に強靭な車体はもはや不要ということになるかもしれません。そもそも衝突しないわけですから。そのとき、車体には今と同じような鋼板を果たして使い続けているでしょうか。

 繰り返しになりますが、自動運転はほんの一例です。これから、さまざまな分野で、AIを核としたICTによって「人手頼りの仕事」が「量産に適した装置産業」へと変貌していくでしょう。私たちは、産業構造を破壊しながら生産性の飛躍的向上を果たしていくことを宿命づけられているのです。それなくして、労働人口比率の急激な低下と社会コストの急増を伴う少子高齢化は乗り切れないわけですから。

 それは分かっていても、「変化をためらう」空気はなかなか消し去れません。けれど、それでも何とかなってしまう状況ではないのです。このことは、先に述べました。「私たちがやらなければ他の人たちがやって、結局その人たちに駆逐されてしまう」だけなのです。