人工知能(AI)分野やIoT(モノのインターネット)分野で事業拡大に乗り出す企業の動きが世界的に活発になっている(関連セミナー「テクノロジーインパクト2030」)。これらの分野で、日本は大きな可能性を秘めていると主張するのが、元グーグル米国本社副社長兼日本法人社長、前名誉会長を務めた村上憲郎である。かつてAI研究に携わり、IoTへの関わりも深い村上氏は、現在でもAIベンチャー企業のご意見番として活躍中だ。AIやIoTにおける日本の可能性を村上氏に聞いた。

元グーグル米国本社副社長兼日本法人社長、前名誉会長 村上憲郎氏

――AI分野では米IBMの「ワトソン」や米グーグルの「アルファ碁」に代表されるように米国の動向への注目度が高く、IoT分野では産業版を例に挙げるとドイツが提唱する「インダストリー4.0」や米ゼネラル・エレクトリック(GE)が主導する「インダストリアルインターネット」の波が日本に押し寄せています。AIやIoTの分野で、日本は世界でどういう立ち位置にあるのでしょうか。

 まず言えるのは、AI分野とIoT分野、いずれも日本が欧米に後れを取っていないことです。AI分野は今、第3次ブームを迎えています。1950~1960年代の第1次ブーム、そして1980年代の第2次ブームに比べ、AIを実用できる段階にあるのが第3次ブームの大きな違いです。第3次ブームで鍵を握っているのが「機械学習」、特に昨今大きなブレークスルーをもたらしている「深層学習(ディープラーニング)」といった分析技術です。これらの技術は高等数学の塊であり、高等数学で構成された数式を半導体チップでひたすら計算して分析結果を出しています。

 高等数学が分かるのであれば、第3次ブームのAI分野で活躍できるといえます。幸いなことに、日本では高等数学を取り扱える研究者が育つ環境が欧米よりも充実しており、高等数学に精通する研究者は欧米よりも多いくらいです注1。しかし、研究者の中には博士号を取得したものの大学や研究機関などでの研究ポジションに恵まれず、進学予備校の講師などを兼ねながら生活している人たちもいます。こうした人材をAI分野で活用できる可能性が高いと、私は考えます。

注1)村上氏によれば、高等数学を取り扱える研究者の例として、素粒子物理学で博士号を取得したような人材を挙げる。

 AI分野で活躍している研究者は現在、世界全体で数千人しかいないと言われ、世界的に人材獲得競争の真っただ中にあります。有望な研究者を生み出せる状況にあることは、日本にとって有利といえるでしょう。

――つまり、AI分野で活躍できる“素養のある”人材が豊富な日本は、第3次ブームの中で世界的に先行できる力があるということですね。実際、日本ではAI分野のベンチャー企業が次々に誕生しています。しかも、20代や30代の若手研究者が第1線で活躍しています。こうしたベンチャー企業の事業内容を見ると、AI技術を使って利用者の課題を解決する具体的なサービスを示しており、提案力の高さをアピールしています。

 繰り返しになりますが、AI分野の第3次ブームが過去と違うのは、実用できる段階にあるということです。ただし、「実用できる」といっても実際に使ってもらえなければ、市場は広がりません。そのため、AIを様々な用途で使ってもらえるように、AI機能の利用を手助けするツールの開発競争が盛んになっています。日本のAIベンチャーもツールの開発に力を入れており、存在感を示す企業も出てきました。AIがあたかも、表計算ソフトの「Excel」のように誰でも簡単に使えるようになる時代がやがて到来するでしょう。