「意地っ張りな怠け者」の存在が日本の成長を邪魔する?

―― 「資源」という意味では、日本は観光資源を生かした観光立国を実現しようとしています。特需ともいえそうな最近の訪日観光客のインバウンド需要の増加には目を見張るものがありますが。

アトキンソン そうですね。しかし、実際のところ日本はその観光資源をまだ生かせていない。観光の分野では、日本は世界で22位とか23位のランクと言われています。こんなに資源があるのに、こんなに海外から人が来ない国というのは逆に奇跡的なんです。

 世界遺産に登録されれば勝手に観光客が増えると思っているのか、観光地の情報発信の仕方もでたらめなことが多くて、十分にその力を発揮できていません。これは、日本が高度経済成長の追い風に乗っていた時代の名残だと思います。

デービッド・アトキンソン。小西美術工藝社 代表取締役社長。1965年英国生まれ。オックスフォード大学で日本学専攻。アンダーセン・コンサルティング、ソロモン・ブラザーズを経て、1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くレポートを発表し、注目を集める。1998年に同社マネージングディレクター、2006年同社パートナーを経て2007年退社。2009年に小西美術工藝社に入社し、2011年から同社会長兼社長に就任。(写真:加藤 康)
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川口 世界遺産については、問題視しなくてはいけないところがあると思っています。なぜなら、世界遺産への登録自体が目的になってしまっているからです。

 富士山のように分かりやすい観光資源はたくさんある。でも、“あるだけ”では心配になるわけです。「富士山くらいの山は、他の国にもたくさんあるんじゃないか」と。そうすると、国際ブランドとしての認証が欲しくなる。それが世界遺産で、次は世界遺産を取ることが目的化していくんですよ。試験で点数を取ることが目的化するのと同じで、これは割と東洋的な発想かもしれません。中国や韓国も似たところがあります。

 例えば、「世界遺産の登録数で世界一を目指そう」という目標を掲げれば、その目標に対しては素直に頑張ることができる。けれど、本来は世界遺産に登録されたことをキッカケに多くの人に訪日してもらい、社会が潤って「めでたし、めでたし」のはずですよね。

 そうはいっても、「世界遺産登録の目的はお金もうけです」と言われてしまうとシラケてしまうというか、たじろんでしまうような部分が日本人にはある。結局は、登録する取り組みを目的化し、そのプロセスを究める「道(どう)」に近くなっていく。

アトキンソン 大事なポイントです。そもそも「道」という考え方が広がったのは明治以降のことです。例えば、私がやっている茶道は、明治以前は「茶の湯」でした。柔道も「柔術」でしたし、剣道も「剣術」だったと聞いています。

 お茶を見ていても、もともとは大変な意味があってできた作法が形式だけになってしまって、その意味が明治以降は忘れられてしまった部分もあります。川口さんがおっしゃったように目的を忘れているところがある。

 よりシニカルに考えると、世界遺産を目指す目的が「怠けるため」になっているのではないでしょうか。本当はもっと磨かなければいけないことは他にたくさんあるのに、それをやりたくないから「世界遺産」という分かりやすいお墨付きを目指す。それさえ取れれば、あとは黙っていても観光客がやって来ると思ってしまっているんですよね。要は、日本には「意地っ張りな怠け者」が多いんです。

 人口が増えていた時代の日本であれば、「世界遺産になりました」というだけで人がやって来た。だから、観光地として整備する必要もなければ、訪問者が満足したかどうかも、そこまで大事ではなかった。旅館ではチェックインの時間よりも少し早めに到着すると、旅館側の都合が優先されて部屋に入れない。逆にチェックアウトの時間になったらすぐに追い出される。食べる時間、食べる料理、寝る時間、起きる時間まで決まっていました。こうした対応に納得していない人がたくさんいても、かつてはそれを上回るお客がいたから商売として成立していたわけです。