未来を正確に予測することはできない。では、特定分野の専門家による英知を結集すれば、確からしい予測ができるのだろうか。2025年までに起きる劇的な変化と未来像をまとめた未来予測レポート『メガトレンド2016 −2025 [全産業編]』(日経BP社)の筆者である川口盛之助氏は、それを否定する。同レポートは、人・社会・技術のライフサイクルの視点で分析した「50 のメガトレンド」を提示し、それらが全産業分野に何をもたらすかをまとめている。なぜ、専門家の未来予測には危うさが伴うのだろうか。

 タイムマシンで未来を垣間見ることができたら、どんなにかいいだろう。

 まず、間違いなく億万長者になれる。勝ち馬を知って馬券を買う、値上がりするものを格安なうちに買う、急成長を遂げる企業の創業に参画するなど、方法はいくらでもありそうだ。企業でいえば「打つ手打つ手がことごとく当たる完璧な経営計画」がいとも簡単につくれるようになるはず。

 だが残念なことに、未来を正確に知ることはできない。そこで必要になるのが「未来予測」である。問題は、それは当たるのかということ。もっともらしい予測は誰にだってできるのである。

 では、ある分野における豊富な知見と深い洞察がなければ「質の高い」未来予測はできないのか。各分野それぞれの専門家を結集すれば、それを根拠に新事業を立ち上げ、新分野に投資してもいいほどの予測ができるのか。それも否だろう。なぜか。

 その理由は、急速に深まる「分野間の相互作用」にある。

「その分野」を凝視しても未来は見えない

 未来を語る書籍はあまたある。その多くは、分野ごとに専門家が分担して執筆する方法でまとめられており、著名人などが全体の「監修者」として冠される場合もある(図1)。このやり方は現実的かつ効率的だが、弱点もある。著者が増えるほどそれぞれの主張の羅列になりがちで、全体像が不鮮明になるということだ。

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未来予測本の分類 (出所:「メガトレンド2016 −2025 [全産業編]」)

 短期予測の場合には、さほど大きな問題にはなりにくい。しかし長期予測では、他分野からの影響が各分野の未来に大きく関わってくるようになるのでやっかいだ。専門家が担当分野のみを見て予測を立てた結果、「個々の予測には説得力があるが、それらが同時に実現することは論理的にあり得ない」といった自己矛盾をはらむ結論が示されることになりかねない。