選択的に1種類の分子だけを通せる究極の多孔質材料。そんな物質の製造技術を持つスタートアップ企業がAtomisだ。

 同社が目指すのは、多孔性配位高分子(PCP:Porous Coordination Polymer)の産業応用。PCPの発見者である、京都大学高等研究院北川進特別教授らの研究成果を活用することを狙っている。技術を核としたタートアップ企業を表彰する「J-TECH STARTUP 2018」のアリ―枠に選ばれた注1)

図1 多孔性配位高分子(PCP)
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注1) 「J-TECH STARTUP」(主催:TXアントレプレナーパートナーズ)は、最先端のコア技術「Deep Tech」を基盤とした国内のスタートアップ企業を表彰するもの。2019年2月8日にはAtomisも登壇する表彰イベントが開催される(詳細はこちら)。

 PCPは有機金属構造体(MOF:Metal-Organic Framework)とも呼ばれ、金属原子と有機物を規則的に並べて作る。設計次第で、様々な大きさで、均一の穴を作ることが可能であるため、特定の原子や分子を閉じ込めたり、透過させたりできる。

 PCPの応用範囲は広い。穴の径を調整することで、特定のガスの吸着(貯蔵)ができることに加え、ガスの分離、イオンの輸送、原子・分子の配列などに使える。加えて、PCPの内部構造を工夫することで、微小な反応場を構成し、物質の合成や触媒などを設計できる。金属元素や構造をうまく選ぶことで、磁性・熱伝導性・誘電特性・光学特性などを付加することもできる。つまり、ガス分離膜、電池材料、磁性体、導電体、センサーなど、産業のあらゆる分野での活用が期待できる。

図2 多孔性配位高分子の応用分野
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 PCPの発見は1990年代後半であり、材料としての歴史は浅い。そのため、現時点では、量産方法も用途開拓も発展途上で、やっと産業応用に手がかかった段階だ。それでも、この材料の大きな可能性を見出したスタートアップ企業が2010年代から世界中で生まれ、しのぎを削る状況にある。

 このPCPの市場に対して、Atomisがビジネス化に向けて狙いを定めたのが、大きく3つの分野である。いずれも他のスタートアップ企業がほとんど手掛けていない領域である。

 まず、PCP材料の製造受託である。新たに設計したPCP材料は、大学との共同研究で提供されることが多いが、研究室レベルで製造できる量は数mgと少ない。企業が実地で試験を行う場合、㎏単位での材料が必要になる。とはいえ、企業にとって研究開発段階で製造設備を作るのは難しい。そこで、Atomisが製造受託を受け、製造パートナーとともに㎏レベルでの材料の提供を行う。また、このときに得た、低コストの製造方法も企業に対してフィードバックする。

図3 多孔性配位高分子の製造受託事業
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 ただ、PCP材料の製造受託は、PCPの実用化にとっては重要な要素であるものの、ビジネスとしてのスケールは小さい。そこで残り2つの領域では、PCPの応用を狙う。応用分野ではPCPを自ら製造するので、ここで得たノウハウや設備をPCP材料の製造受託にも活用する。

 2つある応用領域の1つが、ガス医薬である。生体適合性のある材料で構成されたPCP材料の中にガスを閉じ込め、PCPが体内で分解されたときに放出されるガスで治療を行うというものである。京都大学医学部とともに、実用化に取り組んでいる。

図3 ガス医薬
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 もう1つが、ガスボンベである。特定のガスを貯蔵するPCPをカーボン製FRP(CFRP)内に充填することで、小型で軽量にする。ニーズが顕在化している工業用ガスを手始めに、将来は水素などのエネルギーガスを扱いたいとする。

図5 ガスボンベ
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