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次世代福祉、コストから経済への転換

「ボディシェアリング」 ロボットで新しい助け合い

「超福祉展2018」 インクルーシブ・デザインの現場(6)

2018/11/21 05:00

土屋季之=ライター

マネキンの肩に乗っているのが「NIN-NIN」。赤と黒の2色バージョンがある
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 「カッコイイ」「カワイイ」「ヤバイ」をキーワードに、優れたプロダクトやデザインの⼒で、障害者や⾼齢者などマイノリティーとマジョリティーとの間にある“意識のバリア”を乗り越え、福祉のあり⽅を変える・・・。東京パラリンピックの開催を契機に社会の変⾰を目指す「超福祉展(正式名称:「2020年、渋⾕。超福祉の⽇常を体験しよう展」:2018年11⽉7⽇(⽔)〜13⽇(⽕)渋⾕ヒカリエ他)が、今年も渋⾕の街を盛り上げた。

 超福祉展に登場する技術、製品、ソリューションは、従来の福祉の枠にとどまらず、モノづくりの未来、そしてこれからの社会のあり⽅を考える多くの⽰唆にあふれている。その中からユニークなアイテムやソリューションをピックアップし、紹介する本連載。第6回は、「障害者を助ける」機能を拡張し、誰もが相互に助け合えるフィールドを作ろうとする支援ロボット「NIN-NIN」を取り上げる。

機能の一部を一瞬だけ貸す「ボディシェア」

右が高橋鴻介氏、左は開発者の一人である大瀧篤氏
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 「NIN-NIN」は、一言でいえば「身体機能をシェアするためのロボット」ということになる。つまり「ボディシェアリングロボット」だ。開発のきっかけは、視覚障害者のこんなセリフだったという。

「横断歩道は勘と勇気で渡っている」

 「技術がこれだけ進化しても、実は視覚障害者にとってはまだそういう世界だったということに驚きを覚えました」と話すのは、開発チームのひとり、発明家の高橋鴻介氏だ。高橋氏は墨字と点字をミックスしたオルタナティブなフォント「ブレイル・ノイエ」の開発者でもある。NIN-NINではボディのデザインを中心に開発に携わっているという。

「(視覚障害者には)信号を渡るとき、自動販売機で買おうとするとき、タクシーを止めようとするときなど、ほんの一瞬でいいから、手を貸してほしいというタイミングがいっぱいあるそうです。しかし実際に手を貸してもらおうとすると、外出するときにわざわざアテンドを1人何時間いくらかでお願いしなければならない。だったら、その一瞬だけを助けることができないか、という思いから開発が始まりました」(高橋氏)

技術的には必ずしも最先端ではない。基幹システムには、共同開発者・オリィ研究所の「OriHime」と同じものを使用。現在はポケットPCとバッテリーも持つ必要がある。軽量化、コンパクト化は今後の課題
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 「手を貸す」という慣用句があるが、それと同じように「目を貸す」「耳を貸す」「口を貸す」……というように、人が持っている機能をちょっとだけ貸すことができないか。その思いはやがて「ボディシェアリング」というコンセプトへとつながった。

「今までもカメラを搭載して視覚障害者を支援するウェアラブルデバイスはありましたが、それは視覚障害者専用のソリューションになってしまって広がりが少なかったそうです。しかし、ボディシェアリングというコンセプトにすれば、視覚障害者に限らず『一瞬』がほしい人が誰でも参加できるようになるのではないかと考えました」(高橋氏)

 NIN-NINのシステムは、肩に乗せるロボットと、通信端末としてのスマホやタブレットから構成されている。例えば、視覚障害者がNIN-NINを肩に乗せて、支援者がNIN-NINの目を通して状況を把握し、スマホから音声で指示を出す。支援者が「目を貸している」格好だ。

 視覚障害者が信号を渡るときに、一瞬だけ目を借りる。日本語が分からない外国人が、英語・日本語が分かる人の口と耳を借りる。何かを初めて経験をする際に、経験者から知恵や能力を借りる。こうしたことが起こり得る。ボディシェアのコンセプトは、障害者という枠を超えて、あらゆる人と人をつなぐ可能性を拓いたといっても過言ではない。

 「NIN-NIN」の名は、主君に影のように仕える忍者から来ているが、同時に「人-人」の意味もある。NIN-NINはボディシェアという機能を通じて、人と人をつなぐ相互補完社会の実現を目指している。