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チャレンジド・スポーツを支える人びと

障害者スポーツ、2020年以降も発展を持続するために

アスリートの競技環境に光明、その要因と課題(後編)

2016/10/04 00:00

久我 智也

業界発展のために不可欠なキャリアパス教育

 高原氏は、次世代の障害者アスリートの育成活動にも取り組んでいる。それが「Mission20XX」というプロジェクトだ。これは、高原氏が設立した日本チャレンジドアスリート協会が手掛けているもので、8〜21歳のジュニア/ユース世代のアスリートを対象に、2020年東京パラリンピックで活躍できる人材を発掘することなどを目的としている。具体的には、これから競技を始めようという人を対象とした各競技のトップアスリートによる体験教室、ジュニア/ユース世代のアスリート候補を対象とした講演やワークショップなどを開催している。

日本チャレンジドアスリート協会のウェブサイト。同協会は2014年に設立。現在は座学でアスリート支援を行っているが、将来的には競技大会の開催なども行っていきたいという
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 このプロジェクトでは、単にスポーツの魅力を知ってもらうだけではなく、セカンドキャリアやダブルキャリアに関する教育も行っているという。

「障害者スポーツに限らず、アスリートは昔からスポーツ一筋で育つことが多いので、社会経験が少ないまま大人になっていくケースが多い。すると、いざ引退したときに普通の世界に戻っても何もできないというということがある。でも海外に目を向けてみると、例えばウィリー・バンクス(米国の陸上選手で、三段跳びの元世界記録保持者)という選手は、アスリートでありながら弁護士資格を取得し、今では実業家として活躍しています」

 高原氏は続ける。

 「彼のように引退後のことも見据えた準備というのは非常に大事なことですが、それを子供たちが自分で気づくことは難しい。トップアスリートの経験談や私が就労支援の中で感じたこと、就職に関する情報などを紹介していくことで、セカンドキャリアやダブルキャリアの重要性に気づいてもらおうと考えています」

 セカンドキャリア教育の重要性が叫ばれる状況は、健常者スポーツでも、障害者スポーツでも同じなのである。引退後のキャリアパスを描けないようでは、トップを目指すアスリートのすそ野は広がらないままになってしまう。アスリートとしてだけでなく、一人の人間としての成長を促すことを目指したこのプロジェクトは、障害者スポーツの発展のためには欠かせないものと言えるだろう。

2020年をブレークスルーの端緒にするために

 スポーツが社会に根付き、発展していくためには、国の方針や政策に依存するばかりではなく、企業をはじめとした民間組織の動きをこれまで以上に活性化することが不可欠だ。こうした思いから、高原氏は企業とスポーツを結び付けることに取り組んでいる。一方で高原氏は、国も今まで以上に障害者スポーツの強化に取り組む必要があると訴える。

「今は企業が障害者スポーツを積極的に支援する方向に動き出しています。この機に乗じて、国もしっかりと予算を確保して強化を進めてほしい。例えば中国では、スポーツ用の車いすを国が購入して選手に与えたりしています。もちろん、そのような方法がベストかどうかは分かりませんし、国として動くためには時間が掛かりますが、まだまだやるべきことはたくさんあると感じています」

 2014年に障害者スポーツの強化事業の主管が厚生労働省から文部科学省へと移り、2015年にはスポーツ庁が設立された。国としても障害者スポーツの強化に取り組む姿勢を見せており、実際、日本障がい者スポーツ協会への補助金も年々増加している。しかし、以前よりは改善しているとはいえ、個々のアスリートが競技だけに集中できる環境が整っているとはまだまだ言い難い。2020年に向けた既存の競技施設の改修が本格化すると、これまで選手たちが練習場所として使用していた施設が使えなくなってしまうという矛盾も起こっている。

 新たなことを起こすとき、何らかの歪みが生じてしまうのは致し方ないことかもしれない。しかし障害者スポーツの発展は、2020年を頂点にするのではなく、2020年をブレークスルーの端緒にすることで成し遂げられるものだ。そのためには、国と企業が両輪となってしっかりとしたロードマップの下で強化を進めていくことが必要になってくるだろう。