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チャレンジド・スポーツを支える人びと

メディアと障害者スポーツの関係性が示す日本の未来

スカパー!の取り組みから考える、伝える側の思いと課題(後編)

2016/09/08 00:00

久我 智也

 日本時間の8日朝、リオデジャネイロパラリンピックが開幕する。大会の模様は、NHKを中心に各放送局によって日本に届けられることになるが、そのメディアの1つに名を連ねるのがスカパーJSAT(以下、スカパー!)だ。2008年から障害者スポーツの中継に取り組むスカパー!は、障害者スポーツに取り組むことでどのようなメリット、意義を見出しているのか。後編では、メディアが障害者スポーツをビジネスにつなげるために必要なことや、2020年とそれ以降へ向けての展望を紹介する。

ビジネスとして成立させるためのカギは民放キー局の取り組み

 ここまで紹介してきたように、メディアが障害者スポーツを取り上げる意義は大きい。ただし企業としては、障害者スポーツに取り組むことで得られるビジネス面でのリターンも考えなくてはならない。

 スカパー!のパラリンピック中継は、何らかの形でスカパー!に加入していれば無料で見ることができる。つまり「パラリンピックを見るためにスカパー!に加入する」という人はほとんどおらず、今のところパラリンピックをはじめとした障害者スポーツの中継だけでは利益を得ることができていないという。しかし、同社のパラリンピックプロジェクトでプロジェクトリーダーを務める渡部康弘氏は「中継を続けていく中で、いずれはビジネスとしても成立してくるだろうという感覚は得られるようになってきた」と語る。

「パラリンピックや障害者スポーツのコンテンツとしての力は、だんだんと強くなっていることを感じます。今、国内で行われる障害者スポーツの大会は、そのほとんどが無料で見られる状態ですが、2015年に行われた車いすバスケのアジアオセアニアチャンピオンシップ千葉や2016年の全日本選手権の決勝戦は観客席が7〜8割は埋まっていました。また2015年に行われたブラインドサッカーのアジア選手権兼リオデジャネイロ・パラリンピックアジア最終予選は、有料イベントなのにほぼ満員になっていました。“障害者スポーツを見たい”というニーズは絶対にあると思うんです」

2015年の車いすバスケのアジアオセアニアチャンピオンシップ千葉では、8日間の大会で1万2652人の観客を集め大いに賑わった。コンテンツとしての力をさらに強め、関連業界の利益につなげるにはマーケットの形成が不可欠だ。
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 そして渡部氏は、障害者スポーツをビジネスにつなげていくためには、民放キー局が、積極的に障害者スポーツの試合を中継していくかどうかがカギになるだろうと続けた。

「民放キー局が障害者スポーツの試合を中継するためにはスポンサーが必要です。ただし、スポンサーもイメージアップのためだけに大金を出すことはできないでしょうから、障害者スポーツを中継することがスポンサーにどのようなメリットを与えるかを説明し、理解してもらわなくてはなりません。民放キー局がそういった取り組みを行っていけるかどうかということは、我々としても非常に気になっています」

 地上波放送で障害者スポーツの試合を中継するということは、障害者スポーツに興味のある人が世の中に一定数いることの証明でもある。それと同時に、地上波で障害者スポーツの中継が実現するということは、スカパー!にとってはライバルが増えるということになるが、渡部氏は、むしろその状況を歓迎しているともいう。

「我々は他のメディアに先駆けて障害者スポーツに取り組んできましたが、独占しようとはまったく思っていません。お金を払ってまで障害者スポーツを見たいという人を増やすためには、かなりの量のファンを増やさなくてはいけませんが、それは我々だけでは難しい。誰でも見ることができる民放キー局の地上波放送でライト層が増え、彼らが次第にコアなファンになり、そして、より多くの障害者スポーツの番組を見るためにスカパー!に加入してくれるという流れができれば、完全にビジネスと言える状況になりますから」

 障害者スポーツをマーケットとして成立させるためには、業界全体が取り組まなければならないというのだ。ただし、パラリンピックへの興味が高まっているとはいえ、国内で行われる障害者スポーツの大会を中継すれば視聴率を獲得できるという保証はなく、一筋縄でいくことではないだろう。しかしこのマーケットをつくることができれば、スカパー!としてはもちろんのこと、障害者スポーツを取り巻く環境も大きく変わってくるだろう。

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