記事一覧

チャレンジド・スポーツを支える人びと

メディア×障害者スポーツ、抱えるジレンマと取り組む意義

スカパー!の取り組みから考える、伝える側の思いと課題(中編)

2016/09/06 00:00

久我 智也

 いよいよリオデジャネイロ・パラリンピックが開幕する。大会の模様は、NHKを中心に各放送局によって日本に届けられることになるが、そのメディアの1つに名を連ねる企業が衛星放送事業者のスカパーJSAT(以下、スカパー!)だ。2008年から障害者スポーツの中継に取り組むスカパー!は、障害者スポーツに取り組むことでどのようなメリット、意義を見出しているのか。中編では、障害者スポーツを中継する際の試行錯誤や、視聴者からの反響について紹介する。

障害者スポーツ特有の魅力を伝えるための試行錯誤

 障害者スポーツ中継のパイオニア的メディアであるスカパー!がはじめに直面した「意識のバリア」という心理的な壁。アスリートたちと接し続けることでその障壁を乗り越え、「アスリートをリスペクトし、放送する」という同社の哲学に立ち戻ることができた。ではその一方で、技術面ではどのような苦労があったのだろうか。スカパー!のパラリンピックプロジェクトでプロジェクトリーダーを務める渡部康弘氏は、競技特有の魅力を伝えることに苦慮したと話す。

渡部康弘氏。1972年、山形県生まれ。スカパー!のパラスポーツ中継の初代プロデューサーとして車いすバスケットボールをはじめとした各種競技のスポーツ中継を実現。過去のパラリンピックは2008年北京と2012年ロンドンの2大会の中継制作を担当。現在はBSスカパー!の編成・制作の統括とパラリンピックプロジェクトを兼務。
[画像のクリックで拡大表示]

 その例として挙げたのがブラインドサッカーの中継だ。ブラインドサッカーはその名の通り、視覚障害を持つアスリートによるサッカーで、選手たちはボールに入った鈴の音と敵陣ゴール裏にいるガイドと呼ばれる指示役の声を頼りにプレーする。音が非常に重要となるスポーツであるため、プレー中に観客が声援を送ることもできない。スカパー!では2014年に東京で行われたブラインドサッカーの世界選手権を中継したのだが、この「音」の邪魔をしないために試行錯誤したという。

「健常者のサッカーであれば当然スタジアムに実況解説を入れますが、ブラインドサッカーの場合、実況解説の声すら試合の妨げになってしまうのではないかと思ったんです。そのため、2014年の世界選手権では、スタジオで実況解説を行うようにしました。しかしそれでは迫力が伝わらなかったのではないかと、大会後に大いに反省しました」

 このときの経験を生かし、翌2015年に再び東京で行われたアジア選手権兼リオデジャネイロ・パラリンピックアジア最終予選では、ピッチの横に櫓を組み、高い位置から実況解説を行うという方法を採用することで、臨場感あふれる実況解説を可能にしたという。それと同時に、音声にも工夫を施した。

「ブラインドサッカーの特徴はボールの音とガイドの声。やはり、その音を視聴者にも聞いてもらいたいと考え、主音声は実況解説付き、副音声は実況解説無しで、ピッチの音をそのまま聞かせるようにしました」

 一般的にはまだ馴染みの薄いスポーツであるからこそ、視聴者に魅力を伝えるためにトライ&エラーを繰り返す。だが、それもまだ完璧ではない。長年中継を行っている車いすバスケでも、撮影や画づくりでこんな苦労があるという。

「車いすバスケの場合、今は健常者のバスケと同じように、ボールを持っている選手やゴールシーンを放送する形になっています。しかし、車いすバスケはディフェンスのシーンでローポインターがハイポインター*1を抑えるところに戦術の妙があるんです。そのため、点差が離れるような試合展開の場合は、ゴールシーンを映さずにディフェンスのエリアでのローポインターとハイポインターのせめぎ合いを映したい。それはディレクターにも言っているんですが、そこまではなかなか割り切ることができていない。悩みは尽きませんね」

*1 車いすバスケでは障害に応じて選手に持ち点が設定されており、障害が重い選手から順に1.0〜4.5点までのクラスがある。そして、コート内でプレーする5人の持ち点の合計を14.0点以内にしなくてはならない。障害のレベルが偏らず、公平な条件でゲームを展開するためのルールだ。ローポインターは持ち点1.0〜2.5の選手、ハイポインターは持ち点3.0〜4.5の選手を指す。

日経テクノロジーオンラインSpecial