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メディアは障害者スポーツをどう伝えるべきか

スカパー!の取り組みから考える、伝える側の思いと課題(前編)

2016/09/02 00:00

久我 智也

 いよいよリオデジャネイロパラリンピックが開幕する。大会の模様はNHKを中心に各放送局によって日本に届けられることになるが、そのメディアの1つに名を連ねる企業が衛星放送事業者のスカパーJSAT(以下、スカパー!)だ。他社に先駆けて2008年から障害者スポーツを中継している同社は、日本における障害者スポーツメディアのパイオニア的存在とも言える。ではなぜ、スカパー!は障害者スポーツの中継を行うようになったのか。そして、どのようなメリットがあるのか。同社へのインタビューを通して、メディアが障害者スポーツに取り組む意義を探る。

きっかけは「2016年東京オリンピック」の招致活動

 Jリーグやプロ野球などを中心に、数多くのスポーツ中継を手がけるスカパー!。日本のスポーツファンから高い支持を受ける同社は、2008年より車いすバスケットボール(車いすバスケ)の日本選手権の中継をスタートし、以降、2016年大会まで毎年中継を行っている。個別競技だけではなく、これまで北京、ロンドン、ソチというパラリンピック3大会を放映しており、障害者スポーツにおけるパイオニア的なメディアと言える。

渡部康弘氏。1972年、山形県生まれ。スカパー!のパラスポーツ中継の初代プロデューサーとして車いすバスケットボールをはじめとした各種競技のスポーツ中継を実現。過去のパラリンピックは2008年北京と2012年ロンドンの2大会の中継制作を担当。現在はBSスカパー!の編成・制作の統括とパラリンピックプロジェクトを兼務。
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 しかし、今でこそ障害者スポーツを「スポーツとして」取り上げるメディアは多くなってきているが、2008年当時、障害者スポーツはあくまでも「障害者スポーツ」であり、ドキュメンタリーや福祉的な観点で取り上げる放送局がほとんどだった。そんな中、なぜスカパー!は障害者スポーツの中継を始めたのだろうか。その理由を、社内横断で取り組むパラリンピックプロジェクトでプロジェクトリーダーを務める渡部康弘氏はこう話す。

「きっかけは、2016年大会に向けた東京オリンピック・パラリンピックの招致活動でした。日本でオリンピック・パラリンピックを行うとなれば、かなりの確率で自国のメディアが映像を制作し、世界に発信することになります。しかし当時、障害者スポーツをスポーツとして中継しているメディアは日本にはほとんどありませんでした。そこで、スカパー!が他社に先んじて取り組めば、2016年のパラリンピックを我々が放映できるのではないかと考えたんです」

 その頃の日本では「オリンピック・パラリンピックの招致」というよりも、あくまでも「オリンピックの招致」であり、パラリンピックはオリンピックの付随物、あるいはパラリンピックが開催されるということを知らない人も少なくなかったようだ。そうした状況下でスカパー!は障害者スポーツに取り組むことになったのだが、数多くのスポーツ中継を手がける同社であっても、当時は障害者スポーツ中継のノウハウを持っていなかったと渡部氏は言う。

「まずは2008年の北京パラリンピックから取り組むことになりましたが、いきなりパラリンピックを中継することには不安があったので、その前に、同年5月に行われた車いすバスケの日本選手権の中継に取り組むことになったんです」

 将来への投資として、スカパー!は障害者スポーツに関わり始めた。そしてその中で、数々の葛藤を繰り返していくことになる。

障害者スポーツを伝える際の心理的な難しさとは

 日本有数のスポーツ中継の実績とノウハウを持つスカパー!だが、単純に健常者スポーツのノウハウを流用できたかといえばそうではない。初めにぶつかったのが、自分たち、つまり取材や中継を行う側が持つ心理的な壁だったと、渡部氏は語る。

「まずは大会の前に各クラブの練習を取材しましたが、当然、練習場所は車いすの人だらけで、そうした状況に出くわすのは初めての経験です。そんな我々にとって、分からないことがたくさんありました。例えば選手にインタビューをする際、立ったまま話をしていいのか、それとも目線を合わせるために座った方がいいのか。その選手がどこに障害があるのか、障害を抱えることになった理由を聞いていいのかなど。基本的なところから戸惑いを感じるスタートでした」