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アルゼンチン代表戦に見えたブラインドサッカー成長戦略

日本ブラインドサッカー協会事務局長 松崎氏に聞く(前編)

2019/02/06 05:00

久我智也=ライター

 2018年11月4日、ブラインドサッカー日本代表の強化を目的とした「ブラインドサッカーチャレンジカップ2018」が開催された。世界ランク2位のアルゼンチン代表と対戦した日本は1対3で敗れたものの、強豪アルゼンチンから初めてゴールを奪うなど、収穫を手にした試合でもあった。

 収穫があったのはピッチ上だけではない。この大会で日本ブラインドサッカー協会はビジネス的に新たな取り組みを実施していた。大会後に行った日本ブラインドサッカー協会専務理事兼事務局長・松崎英吾氏のインタビューを通して、同大会での試みや、日本ブラインドサッカーの現状と未来を紹介する。(取材日:2018年11月9日)

日本代表は、エースの川村怜選手(Avanzareつくば)のゴールで先制するも逆転負けを喫する。ただ、世界ランク2位の強豪アルゼンチン代表から初めてゴールを奪うなど、収穫も多い試合となった
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将来を見据えて投資に着手

「ブラインドサッカーチャレンジカップ2018」は、日本ブラインドサッカー協会にとってどのような位置付けの大会だったのでしょうか。

松崎 チームとしては、2020年東京パラリンピックへ向けた強化のための大会です。単に親善試合をするだけではなく、できる限り強豪国と戦いたいと考え、アルゼンチン代表とマッチメイクしました。試合自体は1試合だけでしたが、非公開でトレーニングマッチや合同練習もしているのでチームとして底上げの機会になったと感じています。

 別の視点からお答えすると、今大会は日本ブラインドサッカー協会としては初めて、日本障がい者スポーツ協会(JPSA)と共同で大会を主催しました。車いすバスケットボールやウィルチェアラグビーなど、パラリンピックの花形競技の場合はJPSAが国際大会を主催することは多いのですが、2020年へ向けて国内での露出を増やしていくことも狙い、今回我々もJPSAと共同で行うことにしたのです。

日本ブラインドサッカー協会 専務理事兼事務局長の松崎英吾氏。大学生時代にブラインドサッカーに出合う。卒業後は出版社に勤める傍らでブラインドサッカーに携わっていたが、2007年に事務局長に就任。ブラインドサッカーを通して「視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会」を実現するために、さまざまな事業を推進している
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今大会では新たに設備投資を行ったと聞いています。

松崎 今大会をきっかけに人工芝と大型LEDビジョンを購入しました。まず人工芝についてお答えします。ブラインドサッカーの国際大会は基本的に屋外で行われますが、屋外の場合、お客様が座る仮設スタンドを設置する必要があります。仮設スタンドを設置するには厳しい建築基準をクリアしなくてはなりませんし、1つの席を造るのに概算で1万円ほどの費用が掛かります。

 当然、天候が崩れる可能性もあり、天候が崩れれば客足は悪くなります。実際、2018年に日本で開催した「IBSA ブラインドサッカーワールドグランプリ」のときには天候が崩れ、チケットの売れ行きと着券率が比例していないという状況が見られました。

 この課題を解決するために、今回のブラインドサッカーチャレンジカップ2018は町田市立総合体育館を借り、人工芝を敷いて試合を行いました。体育館の賃借料は掛かりますが、仮設スタンドを造るコストは不要になり、天候によって集客が左右されるリスクも減らすことができます。人工芝を自ら購入したほうが長期的に見てコストダウンにつながると考えたのです。

屋内開催することで、プレー面での影響は出ないのでしょうか。

松崎 人工芝を購入したのはその点も考えてのことです。ブラインドサッカーは聴覚を頼りにプレーするスポーツなので、何も敷かないで板張りの状態のままプレーすると音が反響しすぎてしまい、プレーにも影響を及ぼします。ただ今回、選手たちから音に関する苦情などは出ませんでした。

 もちろん、課題がなかったわけではありません。今回は人工芝がおろしたてだったこともあり、芝目が不規則な状態になってしまう部分がありました。そうしたところはしっかりと検証しながら、今後に活かしていきたいと考えています。

大型LEDビジョンはどのような意図で購入をしたのでしょうか。

松崎 大型LEDビジョンはお客様向けサービスを向上するために購入しています。先ほど話したように、ブラインドサッカーの選手たちは聴覚を頼りにプレーするので、今何が起きているのか、なぜプレーが止まったかなど、アナウンスすることはできません。そこでルール説明などをビジョンに映し出すことで、お客様に対する情報を補完しています。また、ブラインドサッカーはサイドをフェンスに囲まれているので、観客席からフェンス際のプレーが見づらくなってしまいます。そこで、フェンス際でのプレーをビジョンに映し、お客様にとっての死角をできる限りなくすという意図もあります。

 これまでも大型LEDビジョン自体は使用していたのですが、以前はレンタルしていました。ただ、レンタルだとコストが発生し続けてしまいます。広告を募って収入を得ていくという手もありますが回収する目処も立ちにくいので、コスト低減のために購入をしました。

 さらに我々としては、この大型LEDビジョンを他のパラリンピックスポーツ団体にレンタルしていくことも考えています。もちろん既存のレンタル会社さんとの兼ね合いはありますが、相場より安価で貸していけば他団体にメリットを提供できますし、我々としても機材のメンテナンス費用などを賄っていくことができます。こうしたところでも、他団体との連携を深めていくことを考えています。

今回新たに購入した大型LEDビジョン。観戦中の注意事項やプレーに関する説明などを投影し、観客の観戦体験を補助することを狙っている
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