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チャレンジド・スポーツを支える人びと

選手のパフォーマンスを支える車いすの秘密

メーカーの現場担当者が抱く競技と製品への思い

2016/02/15 00:00

久我 智也

世界トップクラスのチームには、必ずメカニック

 日本代表チームの大黒柱であり、ドイツでプレーする藤本怜央選手も激しいプレーによって車いすに異変が起きやすい選手の1人だ。「藤本選手は別格で、車いすのいろいろな場所が傷むんですよ」と上野氏は笑う。「当たりの強い相手との試合は、メカニックとしては神経がすり減ります…」(同氏)。

 上野氏がメカニックとしてチームに帯同し始めたのは、2014年の世界選手権から。それ以前は、日本代表レベルでも選手たちが自ら車いすを修理していたという。

 男子日本代表の小川智樹チームリーダーは、帯同メカニックの存在を「ありがたい」と話す。ただ、デメリットが生じる懸念もあると語った。

「『メカニックがいるから、選手は何もしなくていいんだ』という考えは、甘えにつながってしまいがちです。本来的には、選手自身が車いすの状態を確認することが必要ですから。健常者のアスリートだって靴ひもが切れそうなとき、ほかの人に任せたりはしないですよね」

 もちろん、選手自身が自らの「足」に対する意識を高く持つことができていれば、メカニックが帯同するメリットは計り知れない。

「世界トップクラスのチームには、必ずメカニックがいます。選手に甘えを抱かせないように、メカニックと選手を含めたチームでしっかりとコミュニケーションをとることが大きなメリットにつながる。今後も、そうした関係を築いていくことができればいいと思っています」(小川氏)

 実際、アジアオセアニアチャンピオンシップ千葉の大会中は選手たちのミーティングに上野氏にも参加してもらうことで、各選手の車いすの状態をスタッフがしっかりと把握する関係をうまくつくることができたという。

 最終的に男子日本代表は3位となり、リオデジャネイロ・パラリンピックの出場権を掴んだ。大会後、上野氏はほっとした様子でこう語った。

「試合のたびに小さな故障はありましたけれど、すぐに修理できるレベルのものでした。今回、代表チームに帯同したことで、『こんな工具があると便利』とか、『こんな部品を用意しておけば、いろいろと代用しやすい』といったことに気が付きました。リオに向けて、いい経験値を積めたと思います」

 リオに向けて強くなったのは選手だけではない。苦しい大会を通して、裏方で支えるスタッフたちも含めて、チームジャパンが一層たくましくなったのだ。

試合中だけではなく、試合の前後も車いすのチェックに余念がない。選手とのコミュニケーションも重要になる。
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