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スポーツ、世界への突破力

アシックスが目指すフィットネスアプリの未来形

2019/05/24 05:00

内田 泰=日経 xTECH

 「ものづくりとデジタルの融合」。昨今、多くのメーカーが掲げている戦略だが、言うは易し行うは難しの典型例だ。開発の現場からは苦悩の声も聞こえてくる。そもそも、ハードウエアとソフトウエア(デジタル)の文化には高い壁が存在し、融合の難易度は高い。中長期経営計画「ASICS Growth Plan(AGP)2020」のコア戦略の1つとして「デジタルを通じたスポーツライフの充実」を掲げるスポーツ用品大手のアシックスは、フィットネスアプリを展開する米ベンチャー企業を2016年3月に子会社化し、時間をかけて異質の文化を融合、今では同社のデジタル戦略の中核拠点に据えている。

 あの有名な「ボストン茶会事件」(1773年12月16日)が起きた歴史的な現場の近く、米ボストン市中心部にアシックスのデジタル戦略を一手に担う米国子会社、ASICS Digitalはある。とあるビル内のオフィスに足を踏み入れると、いかにもベンチャーらしい光景が目の前に広がる。

米国独立革命の象徴的事件の1つである「ボストン茶会事件」が起きた場所。現在では博物館になっている
(写真:日経 xTECH)
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 キッチンスペース、テーブルゲームが置かれたフリースペース、そして立ちながらでも仕事ができる執務用の机・・・。愛犬連れの出勤もOKだ。「優秀なエンジニア人材を獲得するためには、こうした自由闊達なベンチャーの雰囲気があるオフィスの存在が重要になる。特に米国では、最近は立って仕事をするエンジニアが多いため、高さを簡単に調節できる机は必須」。アシックス執行役員でASICS Digital CEOの近藤孝明氏は言う。

ASICS Digitalのオフィスの風景。キッチンスペースがあり、ベンチャーらしい開放感がある。なお、取材当日は大雪のため社員の大半が自宅勤務をしていた
(写真:日経 xTECH)
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 ASICS Digitalの前身は、フィットネスアプリ「RunKeeper(ランキーパー)」を展開していたベンチャー企業のFitnessKeeper(フィットネスキーパー)だ。約3年前にアシックスが同社を買収した際、社員数は40人に満たなかったが、現在では100人を超えている。記者が訪問した際も、最近入社した人であることを示す「Welcome ××(名前)」という紙が貼られた机が複数見られた。

 ASICS Digitalは2018年10月1日から、RunKeeperのアプリビジネスのみならず、アシックスグループのEコマース、CRM(顧客関係管理)、デジタルマーケティングといったデジタル戦略を一手に担う新組織になった。中長期戦略を実践するための中核部隊となったわけだ。

 同社はこれまでも、1949年創業の伝統的なものづくり企業であるアシックス(創業当時は鬼塚)のデジタル戦略で、重要な役割を果たしてきた。例えば、2017年12月に提供を開始した、スマートフォン(スマホ)で撮影するだけで足のサイズを計測できるアプリ「MOBILE FOOT ID」の開発の一翼を担った。2018年2月に公開した、ユーザーのランニングフォームをAI(人工知能)を使って簡単に分析するアプリ「ASICS RUNNING ANALYZER(アシックスランニングアナライザー)」の場合は、アルゴリズムは神戸市のスポーツ工学研究所が開発したが、サーバー管理など安定稼働のためのサポートはASICS Digitalが担っているという。

ランニングフォーム分析アプリの「ASICS RUNNING ANALYZER(アシックスランニングアナライザー)」。体験者のフォーム(左)を評価し、上級者(右)と比較できる
(図:アシックス)
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