「氷都・八戸」、地域の価値高める新アリーナをどう造る

ゼビオグループが考える新しいスポーツビジネスの姿(その2)

2018/05/09 05:00

高橋 史忠=日経BP総研 未来ラボ

 スポーツ量販店大手のゼビオグループが2020年春のオープンを目指して、青森県八戸市で建設を計画している多目的アリーナは、国内で盛り上がるスタジアム・アリーナ建設計画や、スポーツによる地方創生の取り組みで大きな指標の1つになりそうだ。

 アリーナの建設・運営によって、どのようにして地域の特徴を最大限に引き出すか。過疎化、少子高齢化などの社会課題を抱える地方自治体は、地方創生の取り組みでどのように民間企業と連携していけばいいのか。

 「スポーツコングロマリット」を掲げて活動するゼビオグループのキーパーソンに聞く連載の第2回では、第1回に続き、同グループでスポーツのリーグやチーム、アリーナの運営を担当するクロススポーツマーケティングの中村考昭社長に八戸のアリーナ計画の特徴や、今後の方向性について聞いた。
(聞き手は、高橋 史忠=日経BP総研 未来ラボ、
石井 宏司=スポーツマーケティングラボラトリー)

公共交通の結節点、駅前は施設の価値高める

―― 2017年12月に計画を発表した八戸市のアリーナは2020年春オープンとのことですが、進捗は。

中村 もちろん、行政や議会の承認、契約が必要になりますので、現在はそれに向けて詳細を詰めていきましょうという状況です。地域とディスカッションしながら、最終的に合意が形成されれば、着工に入ります。

ゼビオグループが八戸市に建設を計画している多目的アリーナのイメージ図。八戸駅西地区に位置する(画像:クロススポーツマーケティング)

―― 「ゼビオアリーナ仙台」は長町駅(宮城県仙台市)からすぐ近くですよね。八戸のアリーナも駅から近い。やはり「駅から近い」は重要な要素ですか。

中村 八戸のアリーナは、仙台よりもさらに駅から近いですね。八戸駅から直線距離で200メートル程度です。やはり、人が集う場所ですから、交通の便がいいことは大切で、公共交通機関の結節点となる駅前は施設の価値を高めやすくなります。

 特に日本は、新幹線や電車、バスといった複数の公共交通機関があるので施設利用の利便性を最大化しやすい。日本も地方はクルマ社会ではありますが、米国に比べて公共交通機関が普通に利用されています。新幹線駅の真横はすごく地の利がありますし、八戸のアリーナでは近くに高速道路のスマートインターチェンジも設置される予定です。高速道路、新幹線、在来線でアクセスできて、駅前なので駐車場も多く、ホテルもある。そういう意味では、様々なインフラが整っています。

―― ゼビオアリーナ仙台で学んだことを生かしていくことになると思いますが、八戸のアリーナで具体的に決まっていることは。

中村 例えば、年間を通して床面に氷(アイスリンク、約60×30メートル)を張りっぱなしにします。これは国内の多目的アリーナでは初めてだと思います。もちろん、仙台と同じようにLEDビジョンなど、演出系の機材はバシッと導入します。他にもいろいろとありますが、まだお話しできないことも多いので、乞うご期待ということで(笑)。

民間でアリーナを造り、地方自治体に貸し出す

―― 氷を使わないときには、氷の上にパネルのようなものを敷くんですよね。

中村 ええ。バーベキューや釣りで使うクーラーボックスって、ありますよね。中に氷を入れて冷やしても、上に座ったときに冷たくないじゃないですか。あれと同じようなイメージですね。氷の上にパネルを敷いて、フタをして断熱すれば、全然大丈夫です。

ゼビオグループが八戸市に建設を計画している多目的アリーナの内部イメージ図(画像:クロススポーツマーケティング)

―― クロススポーツマーケティングが出資するアイスホッケーチーム「東北フリーブレイズ」(本拠地:八戸市)がホームとして利用するとのことですが、年間の試合数はどれくらいなのですか。

中村 チームの試合数は1シーズンに年間40試合前後で、そのうちホームゲームは半分の20試合前後です。日本は地域ごとにスポーツの特徴が多様なので、アリーナの運営ではそれを前面に出していきたい。例えば、八戸市は「氷都」と呼ばれています。北国なので冬はかなり寒いのですが、雪は少なく、屋外では自然に水が凍るという気候の特徴があります。この気候から生まれた昔からのスケート文化があって、アイススケートが盛んです。

 昔は市役所の近くにある窪地に沼のようにたまった水が凍り、そこで自然発生的に住民がスケートをやっていたそうです。そういう文化があるので、市内に複数の屋内リンクや屋外リンクがあって、小さい子どもをはじめ、様々な年代の人々がアイススケートやアイスホッケーを楽しんでいます。

 例えば、フリーブレイズが試合後のバス移動で明け方に帰ってくると、午前4時半くらいにリンクで地元チームが普通に朝練をしているんです。夕方からも練習している方々がいるし、アイスホッケーだけではなく、フィギュアスケートなども盛んです。屋外リンクでも高齢者や子どもが普通にびゅーっと滑っていたり。草野球や草サッカーのノリでアイスホッケーをはじめ、アイススケートを楽しんでいるイメージです。

 地域の皆さんは、心のベースとして存在するアイススケートの価値を最大限に高めようとしています。今回のアリーナでは、年間稼働のうち約3分の1程度は我々が建てたものを逆に八戸市に借りていただき、学校体育や地域のスポーツに活用する形にする予定です。

―― なるほど。民間でアリーナを造って、それを地方自治体に貸し出す形の官民連携ということですね。

中村 はい。民間の施設と、学校体育や地域スポーツとの連携が、八戸のアリーナによる新しい取り組みの1つです。市としては、これまでは100%公費で造っていた施設を、自分たちが必要な時間数だけ借りて使えるようになります。地方自治体の財政からすると、経済合理性が高いはずです。

八戸のアリーナ建設構想の発表会で。左は八戸市の小林眞市長。右はクロススポーツマーケティングの中村氏(写真:クロススポーツマーケティング)

 今、日本では、多くのスポーツ施設が改修や建て替えのフェーズに入ろうとしています。それをイチから造ったり、建て替えたりするのではなく、民間とうまく連携することで、財政の効率化を図れる。先ほど話した公共交通の便がいいことは、学生が施設に足を運びやすいという観点でも大切です。

 「ゼビオアリーナを造ります」というと「商業エンターテインメント物件」というイメージを持つ方もいます。確かに仙台のアリーナはそうですが、八戸のアリーナは民間が整備して、行政が利用するというこれまでとは逆の連携が新しい特徴です。

 舶来のコンテンツを持ってきて、無理やりスポーツ施設を造るトップダウン型のアプローチではなく、昔から地域に根ざしたスポーツの特徴である「氷の文化」に新しい価値を付加していく。そういう特徴は取って付けたように持ってくるものではなく、足下にあります。地域の特徴をきちんと捉えて価値に変える取り組みは、ビジネスの視点では極めて普通のアプローチだと思うんです。

 特徴となるスポーツは地域ごとに違っていていいと思います。それはバレーボールでもいいし、ハンドボールでも、バドミントンでも、卓球でもいい。足下にある特徴を伸ばした方が、地方創生や他の地域との差異化につながりやすいのではないでしょうか。

地域ごとの多様性や潜在的価値にフォーカス

―― 日本では、多くのスポーツ施設が国体(国民体育大会)に合わせて建設され、それに合わせた同じような仕様になっているケースがほとんどです。今は、すべての地域が同じ基準で、同じ仕様のものを同じように造るという時代ではないということですね。

中村 例えば、マンションには建設する地域の特質に合わせた特徴があります。その特徴はそれぞれの地域ごとに違いがあって、販売する際の売り文句になります。同じように、地域ごとの多様性や潜在的価値にフォーカスを当てて、それぞれのアリーナごとに特徴付けていくことが大切だと思うんです。

 これはスポーツ施設では新しく感じますが、他のビジネスを考えるとそれほど珍しいことではないというか、むしろ一般的な取り組みですよね。

―― 一般のビジネスでは普通で当たり前の取り組みだけれども、日本のスポーツビジネスでは普通ではない。また、その逆も含めて、他にも似たようなことが多くありそうです。

中村 ええ。これは誤解が生じるかもしれないので表現が難しいのですが…。例えば、プレーヤーやアスリートを第一に考える「プレーヤーズファースト」「アスリートファースト」という考え方がありますが、ビジネスを進めていると、それがあまりにも特別視されすぎているような印象を持つことがあります。

 アスリートファーストの考え方自体はスポーツの土台となることですし、もちろん選手のことはリスペクトすべきです。まさに、空気がなくなってしまったら生きていけないのと同じように、スポーツのベースとなる考え方だと思います。スポーツを通じて社会を豊かにして、楽しい、素晴らしいものをつくっていくために引き続き守っていかなければなりません。

 このベースの上で、これまでにない新しい価値を生み出すことに、スポーツビジネスの産業としての意義があると思うんです。ただ、当たり前に存在すべき考え方であるが故に、原理主義的にあまりにも前面に出しすぎると、一般企業にとっては新しい価値の提案や創造につながりにくくなってしまうと感じることがあります。

―― なるほど。そうしたベースを大切にしながら、民間の視点で新しい価値を生み出していく人材、特にマネジメント人材はスポーツビジネスで大切になってきますね。

中村 大切ですね。ただ、それは人材を教育して、パズルのようにはめればいいという単純な話ではないことも事実です。実際にスポーツビジネスを運営し、成長させていく中で人材を育てていくしかないように思います。MBA(経営学修士)の教育を受けた全員が名経営者になれるわけではないですから。

 例えば、アリーナであれば、施設を造り運営する中で人材が成長し、周辺産業が同時に成長していく。そういう事業をリスクを負いながら当事者として腹をくくってやっていく人が増えていくと、スポーツビジネスの成長につながる良い循環が生まれていくのではないでしょうか。

 現状の日本のスポーツビジネスは、人材に労働分配するだけの事業成長を実現できないマネジメント側の力不足の側面があると思います。マネジメントを担う人材が産業価値をいかに高めて、きちんと労働分配できるように継続的な成長モデルを描き、それを組織として実現する。このことも一般企業で当たり前の取り組みを、スポーツビジネスでもやっていかなければならない例の1つだと思います。

(次回に続く)
中村 考昭(なかむら・たかあき)
クロススポーツマーケティング 代表取締役社長
中村 考昭(なかむら・たかあき) 1972年大阪生まれ。一橋大学法学部卒業。リクルート、A.T. カーニー、スポーツマーケティング会社を経て、 2010年5月ゼビオ入社、2011年4月より現職。Jリーグ東京ヴェルディ取締役、アジアリーグアイスホッケー東北フリーブレイズ代表取締役オーナー代行、FIBA/JBA公認3人制プロバスケットボールリーグ「3x3 PREMIER.EXE」コミッショナーを兼務