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スポーツ、世界への突破力

スポーツ産業を変革する破壊的イノベーション「eスポーツ」

2027年のeスポーツ

2018/03/23 05:00

久我智也=ライター

―― アジア競技大会で多くの人の目に触れるようになれば、eスポーツにとってはもちろん、関連企業のビジネスチャンスも拡大していきそうです。

片桐 アジア競技大会の正式競技として採用されることは、eスポーツが「スポーツ」として人々に認知される絶好の機会です。それを機に、さらに普及が進むと考えています。

 アジア競技大会の競技への採用は、中国のIT大手であるアリババ集団参加のアリスポーツグループがアジアオリンピック評議会(OCA)と戦略提携契約を結んだことによって実現しました。アリババ集団は、2017年から2028年まで国際オリンピック委員会(IOC)と最高位スポンサーの契約を締結しています。半導体大手の米インテル社も同様にIOCスポンサーになりました。こうした動きを見ると、eスポーツを五輪の正式種目に採用する動きは今後加速していく可能性があります。そうなれば、関連産業はITだけにとどまらず、さらに広がっていくことになるでしょう。

eスポーツは、様々な社会課題を解決する存在に

―― ここまではeスポーツを取り巻く環境面の特徴を聞いてきましたが、ほかにはどのような特徴があるのでしょうか。

片桐 eスポーツは、パソコンとネット環境があり、目や耳、指が動けば誰でも楽しめます。ゲームの画面やヘッドセットからの情報を基に指先でコントロールすることがプレーの基本だからです。障がいの有無や年齢、性別を超えて競い合えるインクルーシブ(包摂的)なスポーツという特徴があるわけです。

 今後、世界的にダイバーシティー(多様性)の取り組みが推進されていく中で象徴的なスポーツとして発展していくでしょう。

 eスポーツは、地方創生にも貢献していく可能性が高い。先ほど挙げたように初期投資が少なくて済みますので、地方で大会を開催しやすいという利点があります。スポーツを活用したまちづくりを目指している自治体が、eスポーツを用いるケースも増えていくと思います。

―― eスポーツは様々な社会課題を解決していくポテンシャルを秘めているということですね。

片桐 現在は、ビジネスのルールが未整備であることや、年齢層によって親和性に大きな差があること、競技者が若く社会経験が少ないためモラルが低く見えがちといった課題があります。でも、社会的な認知度が高まり、そうした印象が変わってくると、eスポーツはスポーツビジネスそのものを大きく変えていく存在になっていくでしょう。

 実際、米国のプロバスケットボール(NBA)やメジャーリーグ(MLB)、欧州のプロサッカーリーグなどのチームによるeスポーツ分野への進出が欧米で相次いでいます。ここにきて、日本でも同様の動きが増えてきました。Jリーグは2018年3月9日に、eスポーツ大会「明治安田生命eJ.LEAGUE」を、同30日から開催すると発表しました。Jリーグがeスポーツの大会を開催するのは初めての試みです。リアルスポーツのeスポーツ分野への進出という象徴的な例です。

 エンターテインメントやインターネット関連の企業の動きも活発です。サイバーエージェントグループのサイバーゼットは同グループのサイゲームスやインターネットテレビ「AbemaTV」に加え、エイベックス・エンタテインメントと共同して、eスポーツのプロリーグを設立することになりました。私も「名古屋OJA ベビースター」として、このリーグに参入いたします。このほかにも、吉本興業がeスポーツ事業への参入を発表しています。

―― これまでスポーツとは思われていなかったeスポーツと、リアルスポーツの融合が本格的に始まった。

片桐 eスポーツというと、ゲームのヘビーユーザーが部屋に引きこもってプレーしているイメージを持つかもしれませんが、決してそうではありません。チームによる対戦で活躍するには、同じチームのメンバーとのコミュニケーション能力や、試合に勝利するための作戦立案能力などが求められます。

 作戦を実行するためには集中力や忍耐力を高める必要があるので、トレーニングに励むプレーヤーも少なくありません。もちろん、パソコンやスマートフォンといったITツールを日常的に使いますから、ITスキルが高いプレーヤーが多い。

―― コミュニケーション能力やITスキルの高さは、現役を引退してからも役立ちそうです。

片桐 ええ。「アスリートのセカンドキャリア」という観点でも、eスポーツには課題を解決するヒントがあるように思います。

日本は「eスポーツ中軸国」になれるか

―― 現在、eスポーツの中心地は米国や中国です。そこに日本が割って入ることはできるのでしょうか。

片桐 現在のeスポーツの中心はパソコン向けのオンラインゲームです。日本は家庭用ゲーム機が大きな市場を占めていたこともあり、eスポーツの波に乗り遅れてしまった感はあります。しかし、ゲームソフトの開発では世界有数の力を持っていますし、ゲームを楽しむユーザーの土壌があることも確かです。

 加えて、日本では、2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピック、2021年のワールドマスターズゲームズ関西2021と、3年連続で世界的なスポーツイベントが続きます。この3年間を経て、日本の労働市場にはスポーツビジネスを経験した人材が数多く供給されることになるでしょう。これは、eスポーツにも良い影響を与えると考えています。

 現状では、日本がすぐに世界での主導権争いに食い込むとは言いにくいですが、これからの10年でeスポーツの中軸の1つとして成長するポテンシャルを秘めている国であることは間違いありません。

【参考文献】
1)Evans,A. et al.,“L.E.K. Sports Survey — Digital Engagement Part One: Sports and the “Millennial Problem”,” L.E.K. Consulting/Executive Insights, Vol. XIX, Issue 12,Jun. 2017.