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スポーツ、世界への突破力

スポーツ産業を変革する破壊的イノベーション「eスポーツ」

2027年のeスポーツ

2018/03/23 05:00

久我智也=ライター

―― 一般の競技者としては参加のハードルが低く、ビジネス面で考えると少ない費用で興行に取り組める。

片桐 ええ。トップレベルになるとスタジアムやアリーナに数万人規模の観客を集めての大会を開催することもあります。でも、多くの場合は映像配信で試合を観られる環境を整備すれば、必ずしも大きな専用施設で大会を開催する必要はありません。

 eスポーツには、選手の体力回復を待つ時間が短いという特徴もあります。リアルスポーツに比べて試合数を増やしやすく、うまく運営すれば興行収入を得る機会を多く設定できるわけです。この特徴は、海外ではオンラインベッティングと相性がいいことへの関心につながっています。オンラインベッティングでは試合数が多い、つまりベッティングできる試合結果が多いほど好まれる傾向にあるからです。

 少ない初期投資で様々な事業展開が可能という特徴は、プロスポーツとしてプレーヤーやマネジメントスタッフへの労働分配率を高めやすいことを意味しています。今後、既存のスポーツビジネスを含めた様々な分野から関心を集めることになるでしょう。

ネット時代に最適化されたスポーツ

―― eスポーツは、ネット動画配信(OTT:over-the-top)サービスでの試合観戦が盛りがっています。

片桐 正大(かたぎり・まさひろ)
名古屋OJAオーナー兼代表取締役社長。1975年生まれ。立教大学卒業後、2002年にプロ野球・福岡ダイエーホークスに入社。2005年には楽天ゴールデンイーグルスに創業メンバーとして参画し、監督付き広報、マーケティング、営業などを担当。2010年にはパシフィックリーグマーケティングに出向。その後、中国、台湾、シンガポールなどでスポーツビジネスに携わり、2016年、日本eスポーツリーグ参戦のプロスポーツクラブ・名古屋OJAを発足。

片桐 eスポーツは競技がオンライン上で完結しているので、ネットメディアとの親和性が極めて高いスポーツです。米国の調査では、ミレニアル世代(2000年代に成人あるいは社会人になる世代)のメディア体験の主流はOTTサービスで、若い世代は「従来のスポーツよりもeスポーツが好き」と答える割合が高いという結果もあります1)

 実際、eスポーツなどのゲームのプレー映像に特化して配信するOTT事業者は、若者を中心に高い人気を集めています。米アマゾン・ドット・コム社の傘下のトゥイッチ・インタラクティブ社が運営する「Twitch.tv」は代表例です。トゥイッチ社によれば、1日に1500万人が同社のサービスを利用し、視聴者1人当たりの平均視聴時間は106分に上ります。

 eスポーツ関連の映像視聴で興味深いのは、プロによる競技だけではなく、個人による「草の根」の取り組みが人気を集めていることです。これは、とてもネットらしい特徴です。Twitch.tvでも、月間で220万人以上のユーザーがゲームのプレー動画を制作・配信しているそうです。

「スポーツ」としての認知で関連産業はさらに幅広く

―― eスポーツは、IT(情報技術)業界を中心に関連する産業が幅広い印象を受けます。

片桐 現在のeスポーツは、ゲーム関連企業のマーケティング費、メディア企業の新たなコンテンツとしての期待、スポーツビジネス関連の企業による新たな顧客層の獲得、ビジネス拡大を期待するリスクマネーの流入などで市場が形成されています。

 今後は、OTTサービス事業者やオンラインベッティング事業者を含め、ITを軸にこれまで以上に様々な業界がeスポーツに関連するようになっていくでしょう。例えば、ゲームをプレーする際のシステム的な「いかさま行為(チート)」を防止するためのITセキュリティーのような分野も、大きなビジネスチャンスになる可能性があります。

―― VR(仮想現実)やAR(拡張現実)など、スポーツビジネスで大きな関心を集めている技術との親和性も高いですね。

片桐 eスポーツのゲームタイトルは3次元(3D)グラフィックスで制作されているので、試合の様子を多視点映像で視聴できる仕組みを構築しやすい。リアルスポーツの場合は、数多くのカメラを使うなど特殊な手法を用いて撮影しなければなりません。

 一方、eスポーツは競技場自体が3Dグラフィックス空間ですから、視聴者はゲーム空間の中に入ってリアルタイムに自由な視点で試合を観戦できます。VR関連の技術開発を手がける企業にとって、eスポーツは普及拡大の大きなきっかけになるかもしれませんね。

 eスポーツはパソコンゲームが主流の米国市場で発展したので、現在はパソコンをプラットフォームとする動きが目立ちます。ただ、デバイスと通信環境が発達すれば、これからはeスポーツでもスマホベースのゲームの取り組みが進む可能性が大きい。実はスマホの方がARやVRの世界に近いので、数年後にはよりリッチな観戦体験を視聴者に届けることができるようになるでしょう。