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身体化するテクノロジー、サイボーグ化する身体

テクノロジーで高速化するパラ100m走

義足の進化と選手の技量向上がシンクロ、相乗効果を生む

2016/09/08 19:00

遠藤 謙=Xiborg 代表取締役、ソニーコンピュータサイエンス研究所 アソシエイトリサーチャー

 この内、決勝に残った8選手(うち7人が義足ユーザー)が使用していた義足メーカーは、Össur社が6人、その他が1人になっている。

ロンドンパラリンピック「T43/44男子100m走」決勝
選手名 メーカー名
Jonnie Pieacock Össur社
Richard Browne Freedom Innovations社
Arnu Fourie Össur社
Oscar Pistorius Össur社
Blake Leeper Össur社
Jerome Singleton Össur社
Alan Fonteles Cardoso Oliveira Össur社
Liu Zhiming N/A

 このようにロンドン大会の下腿義足ユーザーのクラスでは、Össur社の寡占状態になっている。この傾向は2015年にドーハで開催された世界選手権も同じで、決勝に進んだ8人のうち、義足を使用した7人全員が同社のユーザーだった。

 近年、このクラスは世界記録をどんどん更新している。その背景に義足の技術進化と、それを使いこなし始めたアスリートの出現がある。これまで義足はあまり種類がなく、アスリートも限られた中から義足を選んでトレーニングをしてきた。それが、まだ少なくはあるがとても優れた義足が開発されたことに加え、その使い方が徐々に分かってきたのだ。

 また、障害者を取り巻く環境の変化も記録更新の理由の1つである。障害者とはいえ、練習環境やサポートの面でアスリートとして扱われ始める選手が増えてきた。2012年に歴史上初めてオリンピックに出場した義足アスリート、オスカー・ピストリウス(Oscar Pistorius)選手のインパクトは大きかった。

 今後も技術の進化と、選手たちを取り巻く環境の改善と共に、記録はどんどん更新されていくだろう。義足を使った短距離種目は、技術を使いこなしながら、なおかつスポーツ性を楽しむ「F1レース」のようなところが魅力である。この種目を見る際には、選手の走る姿と共に選手たちの義足や走り方の工夫にも注目してほしい。

2020年に向けて、日本メーカーも開発開始

 日本でも2020年の東京パラリンピックに向けて、数社が義足を開発し始めた。

Xiborgが開発した「Xiborg Genesis」。3人の日本人トップアスリートと一緒に開発した。3人のうちの1人、佐藤圭太選手はリオデジャネイロ・パラリンピックにおける陸上男子の100m走と4×100mリレーの日本代表だ(写真:Xiborg)
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 例えば、スポーツメーカのミズノは、今仙技術研究所と協力して開発した新しい競技用義足を先日発表した。今仙技術研究所は、日本で初めて競技用義足を開発した企業だ。また、三菱ケミカルホールディングス傘下の地球快適インスティチュートも自社のカーボン技術を利用した義足開発を行うことを発表している。

 私が代表を務めるベンチャー企業のXiborgは2016年3月に「Xiborg Genesis」という義足を東レやソニー関連会社などと共同開発し、既に販売を始めている。ちなみにこの「Xiborg Genesis」はリオ大会で唯一の国産義足として佐藤圭太選手が使用する。今回、T43/44の100m走に日本から出場する選手は彼だけである。

 T43/44の100m走のスケジュールは、予選が日本時間9月9日の早朝(5時45分~)、決勝が同9月10日の7時58分~になっている。

 ここ数年、この競技のトップ層は非常にレベルが高く、標準記録を破る選手が少ないせいか、予選は2レースのみと聞いている。佐藤圭太選手はタイムでいえば非常に苦しいレースになるだろうが、大会前の数カ月間は非常に調子を上げている。ぜひ、がんばってほしい。

 また、リオオリンピックで日本チームが4×100mリレーで銀メダルをとったことは記憶に新しい。T43/44のクラスの短距離種目における日本は現段階で世界のトップレベルに達していないと言わざるを得ないが、4×100mリレーではメダルの可能性がある。

 パラリンピックではT42~47と障害の種類の異なる4人がリレーチームを組み、腕がない選手がいることも考慮して、バトンの受け渡しではなくタッチで行われる。オリンピックと同様にパラリンピックの日本代表は事前の合宿でこのリレーをみっちりと練習していた。大いに期待したい。4×100mリレーの決勝は9月12日だ。

遠藤 謙(えんどう・けん)
Xiborg 代表取締役
遠藤 謙(えんどう・けん) 慶應義塾大学修士課程修了後、渡米。マサチューセッツ工科大学メディアラボバイオメカニクスグループにて、人間の身体能力の解析や下腿義足の開発に従事。2012年博士取得。一方、マサチューセッツ工科大学D-labにて講師を勤め、途上国向けの義肢装具に関する講義を担当。現在、ソニーコンピュータサイエンス研究所アソシエイトリサーチャー。ロボット技術を用いた身体能力の拡張に関する研究に携わる。また、途上国向けの義肢装具の開発、普及を目的としたD-Legの代表、途上国向けものづくりビジネスのワークショップやコンテストを主催するSee-Dの代表も務める。2012年、MITが出版する科学雑誌Technology Reviewが選ぶ35才以下のイノベータ35人(TR35)に選出された。2014年ダボス会議ヤンググローバルリーダー(写真:谷山 實)