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鈴木友也の「米国スポーツビジネス最前線」

米スポーツ界に革命を起こしたダイナミックプライシング(上)

革新的な値付け手法の誤解と真実

2016/02/03 00:00

鈴木 友也

出典: 日経ビジネスオンライン、2014年11月19日
(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

 誤解(3):ダイナミックプライシングは、人気のある球団(試合)にしか効果がない

 価格最適化による増収効果に限って言えば、確かに人気のある球団や試合の方が、その効果が高いのは事実です(ただ、たとえ不人気球団であったとしても一定の増収効果は認められる)。でも、増収が期待効果の全てではありません。実際、米国スポーツ界も当初はこの誤解に惑わされていました。それは、Qcueの最初の顧客(2009年)がサンフランシスコ・ジャイアンツだけだったことが物語っています。

2014年シーズンの優勝で、過去5年間で3度目の栄冠を手にしたジャイアンツは、MLBでも屈指の人気チームです。2014年シーズンの1試合当たりの平均観客動員数4万1588人で、平均観客収容率にすると99.2%になります。つまり、ほぼ全試合が完売という状況です。

 こうした人気チームであれば、ダイナミックプライシングの導入効果は比較的分かりやすいのです。その人気をチケット価格に転嫁すればよいわけですから。しかし、ジャイアンツのような人気球団はMLBでもそれほど多くはありません。

 2014年シーズンに観客収容率で90%を超えたのは、ジャイアンツの他、カージナルス、レッドソックスの3球団のみです。80%を超えたのは8球団に過ぎません。逆に、半数以上の16球団は平均観客収容率が70%未満です。つまり、多くの球団はチケット完売には程遠い状況にあります。

 でも、ダイナミックプライシングを採用するMLB球団はその後急増し、前述したように現在では過半数のMLB球団がQcueの顧客になっています。では、不人気球団がダイナミックプライシングを導入するメリットは何なのでしょうか?

 それは、例えば正確な需要予測に基づく増収以外の面での効果です。正確な入場者数が予測できれば、運営スタッフや警備員など人件費を削減することが可能です。想定顧客数に応じて飲食のオーダー数などの調整も可能になるでしょう。Qcueの戦略に関する部分なので、これ以上は記述できないのですが、増収以外に多くのメリットを提示することができるのです。

ダイナミックプライシングの課題

 ここまで、ダイナミックプライシングの仕組みや期待効果を解説してきました。逆に、導入における課題や問題点はないのでしょうか?

 よく指摘されるのが、明確な価格体系がなくなるため、価格が変動した際にその理由が分かりづらい点です。最適化された価格は、アルゴリズムによって自動的に計算されますが、その論理はブラックスボックスになっていて買い手からは見えません(サービス提供者にとっては、ここが企業の付加価値の源泉であり、企業秘密で絶対に公開されない部分です)。

 「Business of Baseball」によれば、2011年シーズンにダイナミックプライシングを導入していたMLB球団では、全体平均でチケット価格が1.55ドル(約155円)増加しました。しかし、これはあくまで平均値で、値上げの平均値が3.27ドル(約327円)であるのに対し、値下げの平均は13.63ドル(約1363円)です。

 今まで価格が変動するものに均一価格をつけていたわけですから、価値に合わせて価格を調整すれば「得する」お客様と「損する」お客様が出てしまうのは仕方ありません。しかし、お客様にこの全体像はなかなか理解しづらいため、「なぜ今まで1000円だった席が1100円になるんだ?!」とおしかりを受ける可能性があります。