本連載第1回で議論したように、分業構造の革新はイノベーションである。1980年代後半ごろから電子産業では新たな分業がいくつか発展した。パソコンにおける水平分業、テレビやスマートフォンを巡る設計と製造の分業、そして半導体産業における設計と製造の分業などである。これらはいずれも、分業の担当企業が複数の国に散っており、その意味でグローバルな分業体制が構築されている。

 これらの分業を日本企業は嫌った。それは、この業界で起こったイノベーションを拒否したことを意味する。そして日本の電子産業は衰退していった。分業というイノベーションを拒否し続けたことが、衰退の一因と私は考えている。この点は既に、日経テクノロジーオンラインで議論した。

※ 設計と製造の分業については、筆者のコラム記事「分業を嫌い続けた果ての産業衰退」などを参照。

 また単行本『電子立国は、なぜ凋落したか』(日経BP社)の中でも採り上げている[西村、2014]。

 本稿では、もっと早い時期、すなわち1960年代前半にコンピューター産業で起こった分業の事例を紹介する。それは結果的に、上記の1980年代の分業を準備した。

複雑な問題を解決する唯一の方法は、それを分解することである

 仕事であれシステムであれ、少し複雑になれば分業が必要になる。「人間にとって、ある複雑なシステムを管理し、または、ある複雑な問題を解決する唯一の方法は、それを分解することである」[ボルドウィンほか、2004、p.76]。

 分解するとシステムはいくつかのモジュールに分かれる。各構成要素は、モジュール内では相互依存し、モジュール間では独立している。そうなるようにシステムを分解(モジュール化)しなければいけない。

 モジュールへの分け方や、モジュールとモジュールの間の関係を、アーキテクチャーと呼ぶことが多くなった[青木ほか、2002][藤本、2003][田路、2005]。モジュール同士が独立していて、モジュールを組み合わせれば望みの機能が実現できるようなアーキテクチャーをモジュール型(またはモジュラー型)アーキテクチャーと呼ぶ。代表的な製品としてパソコンが挙げられる。

 これに対して、部品群(モジュール群)と機能群の関係が錯綜しているアーキテクチャーが、インテグラル型である。多数の部品を相互に微妙にすり合わせないと、望みの機能を実現できない。典型的製品は乗用車とされる[藤本、2003]。

 どんな産業であれシステムは複雑化する。分解しなければ扱えなくなる。技術進化の方向としてモジュール化は避けられない。「あらゆる産業は、次第にモジュール化という方向に向かって進化する」[柴田、2008]。ただし、常にモジュール化に向かって進み続けるということではない。ときにインテグラル型アーキテクチャーに逆戻りすることもある注1)。ジグザグを繰り返しながら、大局としてはモジュール化に向かうということである。

 ところで、シュムペーターによるイノベーションの原義は、「われわれの利用しうるいろいろな物や力の結びつき方を変えて、結合を新しくすること」である[シュムペーター、1977、(上)、p.182]。「利用しうる物や力の結びつき方を変える」とは、まさに「モジュールへの分け方とモジュール同士の結びつき方を変える」ことにほかならない。モジュール化による分業は、シュムペーターの原義に戻れば、イノベーションそのものだ。

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