イラスト:ニシハラダイタロウ
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ため息をつく暇があるのなら…

 この会社は、自動車メーカーから見れば一次協力メーカーである。つまりティア1ということだが、その開発部隊のトップ、これが何とも変わっているのである。

 大体、ティア1の開発部長といえば、品行方正で折り目正しいエリート技術者というのが一般的なイメージのように思うが、この部長は違う。髪はザンバラで、服装は実にカジュアルである。それが悪いとは言わないが、およそ自動車業界にいる風体(ふうてい)から遠いことは間違いない。

 その部長がこう言った。

「うちの部では、ため息をつくと、1回1000円の罰金を徴収します」

 うまくいかないときや失望したときなどにため息をつくのは、自分が進んでやった結果ではなく受け身の表れであるとして、罰金を科すというのである。私自身はこれまでに“ため息罰金”など聞いたことがなく、何と奇抜なアイデアだと思った。

 なるほど、ため息をつくのは、いずれの場合も気持ちがほどけたときだ。言い換えれば、緊張が解けたときである。何かに没頭し、それも自らが進んで実行しているときにため息が出る暇はない。

 そこでこの部長は、ため息をつく暇があるのならもっともっと開発に没頭しようと、こんな制度をつくって実践したのである。たまに自分でも知らずにため息をついてしまい、罰金を払うこともあるそうだ。

 ちなみに、ため息罰金がある程度貯まると、皆の呑み代の足しにしてしまうとのこと。そこには、上下関係のないフラットな信頼関係がある。

 いつも言っているが、開発はチームプレーであり、個々の能力を引き出す仕組みとアイデアを存分に出せる開放感が大事である。この制度には、そのような仕組みと開放感が備わっている。

 このように、会社が良くなるには明快な訳がある。それは、誰に言われることではない、自己流の訳である。例に挙げた両トップも、最初は戸惑ったに違いない。だが、一体どうしたら皆がやる気になるのだろうか、ポテンシャルを引き出すにはどうしたらいいのだろうかと迷いながらも、自身で最善の策=訳にたどり着いた。

 自分で考え、自分が先頭になって創る、良い会社になる訳。過去の成功体験ではなく、将来に向かう訳を創ること、それが原理・原則なのである。

 ところで、私の会社に訳があるかって? う~ん、そう言われると、これという訳が見当たらない。……いや、私の会社には「訳が分からない」という訳があった!(く、苦しい)