「社会経済システム」の前提を疑え

武藤 「医療が国防になる」という考え方は非常に興味深いですね。初めてそういった観点をもちました。あらためて、日本の医療や介護を取り巻く状況についてはどう感じていますか。

江崎 まず、日本は急速な少子高齢化の結果、世界で最も高齢化が進んだ国になっています。日本に限らず世界の人々は「高齢化」に対して「労働力が減り、購買力も減るため経済が沈滞する」、「医療費・介護費が増大する」といった暗いイメージを持っています。個人的にはこうしたネガティブなイメージが対応そのものを間違える原因ではないかと思っています。

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 細胞学の観点からは、生物学的な人間の寿命は約120年と言われています。しかしこのことは昔から経験則的に理解されていたようで、旧約聖書にも人間の寿命は120年という記載があり、2度目の還暦を意味する「大還暦」は120年です。かつては飢餓や戦争などの影響もあって、還暦の1周目(=60年)までで概ね人生が終わるというのが一般的な認識であり、経済社会の仕組みもそれを前提に作られていました。

 しかし、現在は経済が豊かになり医療技術も発達したおかげで、多くの人が2周目の人生を生きることができるようになったのです。誰もが健康長寿を願いそれが実現されれば社会は必然的に高齢化します。長年にわたる人類の夢が実現しつつあるのに、なぜネガティブなイメージを持つのでしょう。

 それは、1周目で人生が終わることを前提とした社会経済システムのままで高齢化を捉えるからだと思います。1周目の人生は子育てや誰かを養う必要がありますが、2週目の人生は自分と社会のためだけに全てのエネルギーを使えるのです。実は、「人生の本番」は2周目にあるのかもしれません。