自動車はこれまでもエレクトロニクスやIT(情報技術)の最新技術を取り込んで、その価値を高めてきた。カーナビゲーションシステムはその代表例と言えるだろう。ここに自動運転という機能面での大変革がやってくる。加えて米ウーバーテクノロジーズに象徴される「シェアリング」という利用面での大波も押し寄せる。自動車とその主要構成要素について、価値と役割が根底から揺さぶられることは避けられない。例えば高度なナビゲーション機能とも見なせる自動運転が普及すれば、カーナビは不要になるのだろうか。

 1990年に世界初のGPS(全地球測位システム)搭載市販カーナビを世に送り出したパイオニアの畑野一良理事は今、自動運転技術と格闘中だ。キーワードは距離測定センサーである「ライダー(LiDAR:Light Detection and Ranging)」と「デジタル地図」。エレクトロニクス技術で自動車の価値創造に取り組んできた畑野理事に自動運転への取り組みを聞いた。
(聞き手:日経BPクリーンテック研究所 林 哲史)

――自動運転をはじめとして、自動車を取り巻く世界が変わりつつある。自動車に求められる役割や価値が変わるのではないだろうか。

畑野 自動車が持つ大きな魅力に、ドライバーや同乗者に楽しい空間を提供できることがある。いい音を追求できるし、臨場感も作りやすい。音楽を聴く空間としてちょうどいい。運転しながら歌手の声に合わせて大声で歌うという、カラオケにはない別の楽しみもある。個室であることもあって、感情を発散しやすく、カタルシスを感じやすい空間と言える。

パイオニアの畑野一良理事

 この快適空間設計を考えるとき、今、同時に起こっている二つの変革の影響は無視できない。自動運転とライドシェアだ。この二つは相互に作用して“化学変化”を起こすかもしれない。自動車がどのような存在になっていくのかについては、いろいろな可能性がある。予想は難しいが、それだけ楽しみでもある。

――自動車メーカーとシェアリングサービス事業者の提携は始まっており、化学変化が生じる基盤は整いつつある。自動運転とライドシェアが結びつけば、所有する自動運転車を自分が使わないときにライドシェア事業者に貸し出す、といった新しい用途や価値が生まれるかもしれない。

畑野 ライドシェアというカースタイルは、自動車を利用者相互でシェアし、使いたい時だけ予約して使用するという新しい価値観に根ざしている。この価値観に魅力を感じる人も多いだろう。ただ、所有することで得られていた利便性はなくなる。車を所有していれば出かけたいときにすぐに出発できたが、ライドシェアでは車が来るまで少し待たなければならない。この“少し待つ”という不便さをどれだけの人が受け入れられるのだろうか。

 以前、通信カーナビを開発したときに学んだことがある。通信カーナビの特徴は最新の地図情報をその場で入手できることにあった。ただし、通信できるデータ量に制限があったため、地図情報は簡易なものだった。最新情報を入手できることは評価してもらえたが、慣れ親しんだリッチな地図を求める声が多く、このプロジェクトはうまくいかなかった。慣れ親しんだ便利さはなかなか捨てられない。これは、新しい価値を提供するときに共通する課題なのかもしれない。

――自動運転は自動車メーカーが積極的に取り組んでいる技術分野だが、多くのカーエレクトロニクス・メーカーも関心を示している。

畑野 自動運転技術は人の命に関わるので、2重3重の安全性が求められる。複数の方式を併用して安全性を高めていかなければならない。現時点で自動運転技術全体の業界共通のアーキテクチャーは確立されていない。自動車メーカーを中心に、各社がそれぞれのやり方で進めているのが実情だ。

 自動運転を構成する技術分野はいくつかある。できるだけ多くの技術分野に自ら乗り出して開発したいと考える自動車メーカーもあれば、他社にいいものがあればコア技術であっても他社の技術を積極的に取り入れようと考えるところもある。自動車メーカーだからといって、注力する領域が同じとは限らない。

 自動運転には非常に多くの要素技術があるが、我々は、自車位置の推定と周辺環境認識のソリューションを、自社開発中のセンサーである3Dライダーと、地図データを使って開発している。

 3Dライダーは周りの物体までの距離を正確に測定できるセンサーである。対象となる物体までの距離を3次元データである「3D点群情報」として測定できるので、目標物への距離情報から自分の正確な位置を割り出すことができるほか、周りにある障害物までの正確な距離や障害物の形状を知ることができる。

 自動運転を実現する技術はこれだけでない。正確な自車位置を推定するためには高精細なデジタル地図が必要になる。高精細なデジタル地図がないと照らすべきものがないので、詳細な自車位置を推定できない。

――高精細なデジタル地図がなければ自動運転はできないのか。

畑野 できない。自動運転をするには、自分がどこにいるのか、そして周囲にはどのような形状の物体があるのかを5cm、10cmの精度で知る必要があるからだ。今のカーナビで使っている地図とGPS(全地球測位システム)ベースの自社位置測定では数メートルの誤差が生じてしまう。これでは安全に走れない。

この先は会員の登録が必要です。有料会員(月額プラン)は申し込み初月無料!