GROOVE X代表取締役の林要さんと、慶應義塾大学大学院の前野隆司教授による対談の第3回。身長40cm、体重4kgほどの「LOVOT(らぼっと)」のボディには、「かわいい」を実現するためのさまざまな技術が詰まっている。温かい体やつぶらな瞳、そして親しみを感じさせる音声…。コストを考えると、本当はもっと高価に売りたいというほどに、「かわいい」を実現する技術にこだわった理由は何か。そこから、これからの技術開発に求められる要諦が見えてくる。
林さん(左)と前野教授(写真:加藤 康)

温度が上がるとロボットの頭が悪くなる

前野 LOVOTでは、技術的にもかなり面白いことをやっているそうですね。自動車開発での経験や知識は役立っていますか?

 例えば、レーシングカーの空力設計を手掛けた経験が生きています。具体的には、LOVOTの頭脳となるコンピューターを冷やしつつ、温かみを感じさせる体温を持たせる機構の設計に役立っているんです。

前野 確かに、LOVOTを抱くと温かいですね。

 例えば「ガンダム」が分かりやすいと思うのですが、アニメのロボットには吸気口と排気口が付いているじゃないですか。「かっこいいな」と思って見ていましたが、リアルに作ってみると、あの吸排気口は本当に必要なんですよ。ロボットというのは、最後は冷却との戦いになる。そのことを、きちんと見通していたアニメはすごいなと。

前野 自動車のメタファーか何かで考えられたものでしょうね。アニメを作る人たちが機械工学を学んでいるとは限らないでしょうから、それを予見していたことは確かにすごい。

 冷却機構は難しくて、温度が上がると例えばコンピューターの処理能力が落ちてロボットの頭が悪くなってしまいます。そうすると、例えば、意思決定の処理はうまく動いていても認識が遅くなったりするなど、部分的に機能しないところが出てきてしまいます。だから、全般的にきちんと冷やさなければなりません。

 もちろん、単に冷やすだけであれば、大きなファンを付けてブンブンと回して冷やせばいい。でも、商品としては静かにして、しかも軽くしなければなりません。さらに、LOVOTにとって体温は重要な要素なので、全体を保温する必要もあります。冷却と保温を両立させることは、技術開発ではとてもやっかいです。その点では、F1で空気の流れの開発に携わっていてよかったと思いますね。

前野 なるほど。静かに冷やして、かつ温かみも備えなければならないわけですね。

 LOVOTには静かなファンを使っています。内部の何枚ものボードの間を血管を張り巡らせているかのように、くるくると空気が流れるようにしています。実は、僕のほかにもう1人、F1の開発経験者がいます。2人のF1経験者が、時速2kmで動く世界最小の自動運転車のようなロボットに携わっているんです。

前野 目の動きも何だか3次元的に見えますよね。うるうるした非常に立体的な動きに見えますが、あれは普通の液晶パネルですか。

 高精細の液晶パネルです。目はだいぶ苦労しました。最初は3次元形状のディスプレーを作ろうとしましたが、目だけで今のLOVOT一体分ぐらいの値段になってしまうので量産品になりませんでした。まだ、今の技術ではコスト面でフラットな液晶パネルを使わざるを得ないのです。

 次に考えたのは、目の表示を3次元グラフィックスで動かすことです。でも、その方法ではロボットの正面に正対しているときしか目が丸く見えません。斜めから見ると視線が合わない。3次元グラフィックスのアニメーションは見る人がどこにいるかを仮定して作っているので、見る人が正面からずれた瞬間に見え方が崩壊してしまうのです。そこで結局、2次元グラフィックスで目を表示する仮想的な層を複数用意して、それぞれの層で目を表示する方法を採用しました。

前野 複数の層で表示するから立体的に見えるんですね。何層用意しているのですか。