石渡 ほかの人にも、いつもそれを言われるんですけど…(笑)。とにかく、先ほど話したように私にとっては森での体験がかなり衝撃的だったんですよ。登山家でもないし、キャンプに出掛けるわけでもないし、特に自然に興味を持っていたわけでもなかったんですけどね。だから社員はビックリですよ。「社長が、いきなり『森』とか言い始めたよ」って。まあ、私が急に何かを言い始めることにうちの社員は慣れているんですけども。

 技術や知識、ありとあらゆるものが真似される時代です。我々のような小さな会社が生き残っていくためには、絶対に真似されない良いものを確立して、それをキラーコンテンツにする必要がある。それは企業文化だと思っています。

前野 石渡さんの前に対談した米monogoto社の濱口秀司さんも同じような話をしていましたよ*4。真似されないのはストーリーだと。企業文化では、ストーリーがすごく大切ですよね。

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前野 隆司(まえの・たかし)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。1962年山口生まれ。広島育ち。1984年東京工業大学工学部卒業、1986年東京工業大学理工学研究科修士課程修了、同年キヤノン入社、1993年博士(工学)学位取得(東京工業大学)、1995年慶應義塾大学理工学部専任講師、同助教授、同教授を経て、2008年よりSDM研究科教授。2011年4月よりSDM研究科委員長。この間、1990〜1992年カリフォルニア大学バークレー校Visiting Industrial Fellow、2001年ハーバード大学Visiting Professor。著書に『脳は記憶を消したがる』(フォレスト出版)、『「死ぬのが怖い」とはどういうことか』(講談社)、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門 (講談社現代新書)』(講談社現代新書)、システム×デザイン思考で世界を変える 慶應SDM「イノベーションのつくり方」』(日経BP社)など多数。(写真:加藤 康)

石渡 ホッピービバレッジが100年を超える長い歴史を紡ぐことができた大きな理由は、祖父や父の人柄の良さにあると思っています。だから、祖父と父が残してくれた人柄のいい企業文化をさらに磨き上げるために、自分を含めて社内の人間力を高めていくことが大切だと考えているわけです。その意味で、私の中では会社と森がつながっているんです。

前野 なるほどね。でも、もっと分かりやすいつながりはありませんか。ホッピーのような製造業、特に飲料メーカーと森について。

石渡 「バカヤロー」って言い続けて育てたみかんと、「よしよし、いい子だね」と言って育てたみかんには違いがあるという話があるじゃないですか。もちろん、これからも技術は磨いていくし、新商品も出していくんだけれども、やっぱり人柄の良さや、人の喜び、人の幸せのために働く喜びという原理原則にもう一度立ち返って、それが当たり前のスタンダードになったら商品はもっと良くなると思っているんです。

前野 人間力を高めると、ホッピーはおいしくなると。