前野 幸せと経営の研究では、経営者がトップダウンに命令するよりも、フラットな組織で社員それぞれがやりがいのある仕事をしている方が幸せを感じると言われています。やりがいがあるから成果も上がる。幸せな社員は生産性や創造性が高く、欠勤率や離職率が低い。そう考えると、「幸せな経営」は、これからもっと必要になってくるでしょう。

 実は、幸せの条件とイノベーションの条件は似ているので*1、本当は社員の幸せを重視すると回り回って売り上げが伸びるという仮説があるんです。これを石渡さんが体を張って実践しているということでしょうね。

*1 幸せの条件とイノベーションの条件の関係については、「イノベーターは愛される変人であれ」を参照。

 これまでは売り上げを伸ばすために経営者がさまざまな工夫を仕掛けてきたけど、あえて売り上げを伸ばすのではなくて、社員個人のリーダーシップ力と幸せ力を高めることに注力する*2。それによって、自然とみんながイノベーティブな発想で取り組めるようになって、次のステージに上がっていくわけですね。

「森仲間」という絆が社内にできて、チームビルディングにもなっている(写真:ホッピービバレッジ)

石渡 昔からホッピービバレッジでは「量より質」を大切にしていて、もともと量は追い掛けていません。技術や人間力など、すべてにおいて質を追うことによって、生産量が伸びてもお客様からの要求についていける体質になると考えています。「量」第一主義では空中分解しちゃうんじゃないかと思うんです。

前野 おじいさんは、商品の質にこだわる人でしたね。ノンアルコールビールのニセモノがよく売れた時代に、「ニセモノはお客様を裏切ることになる」と決してそれを作ろうとはしなかった*3。そういう商品の質へのこだわりを、社員や会社という組織の質に広げていくということですか?

石渡 私を含めて社員の質、人間力を高めて企業文化の質を向上させることですね。では、「人間力を上げるためにはどうすればいいか。どう伝えればいいのか」という家庭教育に近いことを私は会社でやっているのだと思います。

 ただ、会社は家庭ではないので、仕事を通じて上司や先輩が部下に背中を見せることはできても限界があります。会社組織には立場や肩書きなど越えにくい壁もありますから、親子のようにはならない。そこに森という環境を取り入れることで、一足飛びに壁を飛び越えられるようになると考えたんです。

 森という場を共有した社員が増えていけば、これからリーダーになっていく新卒組の社員は「イノベーティブな組織をつくろうとしているんだな」と理解してくれるでしょう。それによって会社はまた一歩、飛躍できると思っています。

前野 読者は、いきなり森の話が出てきてビックリするかもね。「イノベーションを起こすためには森が大切なのか」と。「海じゃダメなのか」と思わないかな(笑)。