石渡 2006年にホッピービバレッジは新卒採用を始めました。それから、私は人材育成にどっぷりはまってしまいまして。

 社会的には心を病む人が増えている時代です。大学を卒業したばかりの新人を育てていくということが、今までと同じようなやり方ではできなくなっています。より人の心について知っていないとマネジメントができない時代だからこそ、人の心を学ぶということが面白くなってきた。

 これは私の仮説ですが、どんな分野でもプロになるまでには10年かかると思うんです。例えば、基礎を学ぶのに5年、そこからプロとして動けるようになるまでが5年とすれば、内定を出してからの5年間は社会人の基礎を徹底的に教える時期です。既に新卒入社組の1〜3期生は基礎の5年を終えて、1期生は10年目を迎えます。でも、新卒の人材育成は初めての経験なので、10年でプロになるための仕上げの段階でどう育てたらいいのか、分からない部分があったんです。

前野 基礎教育についてはOKだったんですか。

石渡 そうですね。でも、この10年は試行錯誤でした。実は、「5年で基礎教育」という考え方を取り入れたのも3年前なのです。特に1期生のときは鍬だの鋤だのを持って一緒に耕していたイメージでした。この10年間で新卒社員と共にトライアルをさせてもらった感じですね。

石渡美奈(いしわたり・みな)
ホッピービバレッジ 代表取締役社長。1968年東京生まれ。立教大学卒業後、1990年に日清製粉入社。退社後、広告会社でのアルバイトを経て、1997年、ホッピービバレッジに入社し広報宣伝を担当。2003年に副社長に就任し、2010年から現職。現在、慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)に学生として在籍中。著書に『ホッピーの教科書 みんなに愛される元気な会社の作り方』(日経BP社)、『社長が変われば会社は変わる!』(阪急コミュニケーションズ)、『技術は真似できても、育てた社員は真似できない』(総合法令出版)、『ホッピーでhappy! ヤンチャ娘が跡取り社長になるまで』(文藝春秋)など。(写真:加藤 康)
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前野 リーダーシップって、教えて学べるものですか。

石渡 基礎の5年間を終えてからの5年がリーダーシップ教育となりますが、おっしゃるようにリーダーシップって教えられるものじゃないですよね。

前野 これまでのお話では、石渡さんのおじいさん(創業者の石渡秀氏)やお父さん(現会長の石渡光一氏)も自分の力でやってきているでしょう? それを社員に教えることはできるんですか。

石渡 「どうしようか」と思いを巡らせているときに、「森」に出合ったんです。森の中では、ありとあらゆる事象をアナロジーとして発見できる。

 例えば、背が低いというコンプレックスを持つ社員に社長が「テニスプレーヤーのマイケル・チャンは小柄なのに世界屈指のプレーヤーだったでしょ」というようなたとえ話をしてもなかなか伝わらない

 でも、森の中では、ほかの人の話を受け入れやすい気持ちになれるんです。森では小さな生き物も自分の役割を堂々と果たしていますよね。そのことに気づいて、「その生き物なしでは周囲の生態系を維持できない。小さいとか大きいとか関係ないな」というようなことを思えるわけです。森に行くとホッとして、自分のコンプレックスから開放される感じがするんですよね。