人間が気持ち良くなるプログラム

野々上 結局、私たちが見ている世界も、ある意味ではVRやARですよね。脳で再構築した世界ですから。

川口 そうですね。だから、リアルではないといえばその通りです。これからそのあたりをどれぐらい身体に取り込んでいけるかということです。

野々上 そうすると、先ほど仰ったように、最終的には脳を直接ハックすることになると。

川口 論理的にはそうなりますよね。そして、その動きを止めることはできないでしょう。

 そういう世界では、人間が気持ち良くなるようなサブルーチンプログラムをいっぱい作っておくんでしょうね。視覚用とか触覚用とか、そういうのが全部ツールキットになって、このタイミングではこれを出そうなどとやるわけです。マッサージ器のすごいやつみたいな。

野々上 中毒性があるでしょうね。

川口 我々がいるリアルな空間は、役に立たないもので満たされています。バーチャル空間はすべて人工的に作られているので、路傍の石でも何でもそうですが、誰かが何らかの理由で作ったファイルです。リアルな空間の揺らぎや乱雑さまで織り込んだバーチャル空間を作ろうとすると、本当に大変です。トランジスターが何個いるんだという話です。

 やっぱり人間の脳は規則性を求めていて、イレギュラーを嫌うので、普通にやっているとバーチャル空間はどんどん秩序だった予定調和の世界になってしまいます。でも、リアルな世界はイレギュラーに満ちあふれています。例えば結婚相手とどこでどう出会うかなんて、ほとんど偶然ですよね。そういう出会いなんかもまだAIでは再現できないと思います。

(写真:加藤 康)