絵は作れても音はなかなか作れない

川口 実際、音の効果というのはすごいものがあります。映画も無音で見たら、たぶん何も感じません。BGMなど音が入っているからこそ、いろいろと感じるところがあるわけです。

 デジタルの世界でも、新進気鋭のアーティストがショートムービーをアニメで作るとき、絵は作れても音をなかなか作れないそうです。絵としての完成度は高いんだけど、BGMや効果音が意外と難しい。絵を作るプロセスは自動化のツールもそれなりに出てきていますが、音の方はそれほど進んでいません。やっぱり音の方がアナログ的といいますか、例えばこのシーンに「ロッキーのテーマ」を流そうというような判断は人間が蓄積した感性によるところが大きく、ビッグデータ的なアプローチが使えるのはまだまだ先みたいです。

 さらに、匂いや味に至っては、ほとんど手付かずです。音はそれなりにデジタルデータ化されていますが、匂いや味はそもそもデータになっていませんので。だからこそ、その感覚をデジタルで再現するエレクトロニクス技術に価値が出てくるのです。

野々上 仁(ののがみ・じん)
ヴェルト 代表取締役 CEO。1992年に京都大学卒業後、三菱化成(現・三菱化学)に入社。配属された光ディスク部門にて生産管理・新規営業や製品企画を担当。インターネットの世界に魅了され1996年にサン・マイクロシステムズに入社。2010年のオラクルによる買収後は、日本オラクルにて執行役員およびバイスプレジデントとしてハードウエアの事業部門を指揮。2012年8月、次なるネットワークコンピューティングの世界に挑戦するため、ヴェルトを設立。2014年には「アップルウオッチ」に先駆けて日本発のスマートウオッチを発売。現在に至る。(写真:加藤 康)

野々上 最近面白いと思ったのは、3Dハプティクスですね。ボタンを押してないんだけど押しているような感覚にさせてくれるという。これは触覚ですね。

川口 これもすごいですね。ディスプレーの解像度を100万画素から1億画素にするよりも、たとえ稚拙でも触覚を取り入れた方が得られるリターンは大きいはずです。どうせ同じリソースを投入するんだったら、99を100にするよりも、0を1にした方が没入感を大幅に高められるはずです。

 そういう意味では、視覚と聴覚の次が触覚でしょうね。力感とか手で触れた感覚とか、ARやVR(仮想現実感)の世界はいくらでもできます。

野々上 そこは、今まで大変だったからできなかったっていうだけで。

川口 だから、まだまだブルーオーシャンなんですね。