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身体化するテクノロジー、サイボーグ化する身体

「義足は“ずるい”」、不毛な議論はなぜ起きる

固定観念から抜け出し、新しい競技としての面白さを

2016/09/29 00:00

遠藤 謙=Xiborg 代表取締役、ソニーコンピュータサイエンス研究所 アソシエイトリサーチャー

 9月17日、リオデジャネイロパラリンピックで1番の話題だった陸上競技の男子走り幅跳びで、優勝候補のMarkus Rehm選手(ドイツ)が8m21cmという驚異的な記録で優勝した。彼に関する記事を見ると、驚異的な記録を称賛する内容と、オリンピック参加の是非を問うものが多いようだ。

リオパラリンピック男子走り幅跳び決勝におけるRehm選手の跳躍(動画:リオデジャネイロパラリンピック公式YouTubeチャンネルより)

 2012年のロンドンパラリンピックの同競技でRehm選手は、7m35cmという記録で優勝した。ちなみに彼が当時使用していた義足は、ドイツOttobock社の「Springlite Sprinter」である*1

*1 Ottobock社の競技用義足については、前々回のコラム「テクノロジー視点で見た競技用義足、難しさの理由」を参照

 その後、Rehm選手は義足をアイスランドのÖssur社の「Cheetah Xtreme」に変えてから、跳躍が飛躍的に伸びていった。2014年にはドイツ陸上競技選手権で健常者に混じって8m24cmを記録して優勝したのだが、ドイツ陸上競技連盟は彼をオリンピックのドイツ代表チームには選出しなかった。それは、彼の跳躍が他の健常アスリートとは別のメカニズムでなされていると判断したためである。

 彼がリオオリンピックへの出場を目指しているときに、国際陸上競技連盟(国際陸連、IAAF)は「義足が有利ではない」という証明を彼に求めた。その要望に対して研究者たちが客観的、かつ科学的な解析で、「助走は不利、踏切動作では有利である」というデータを提出した。しかし、その結果を受けて、国際陸連の出した結論はオリンピック出場の拒否だった。

 実は同じようなことが2008年にあった。北京オリンピックを目指していたOscar Pistorius選手は国際陸連に出場を拒否された。これを受けて、南アフリカのOscar Pistorius選手はスポーツ仲裁裁判所(CAS)を通じて同連盟に異議を申し立てた。研究者たちが科学的な解析から導き出した答えは、「義足は有利に働いているとは言えない」ということだ。その結果を受けて、国際陸連が出した結論は五輪出場への許可だ。

 義足で走ることは人体の運動にどのような影響を与えているのだろうか。エンジニア目線かつ個人的見解も含む説明をしようと思う。

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