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片足義足と両足義足、どちらが速い?

障害の重度、各戦略と競技の公平性

2016/09/16 19:00

遠藤 謙=Xiborg 代表取締役、ソニーコンピュータサイエンス研究所 アソシエイトリサーチャー

 現在、リオデジャネイロパラリンピックのルールでは「T44(片足下腿義足)」クラスと「T43(両足下腿義足)」クラスが一緒にレースをすることになっている。片足が義足と両足が義足では障害の重度が異なるので、これが不公平だと思っている方は多いかもしれない。

T43クラスは、両足下腿義足(機能障害も含む)

 現在のクラス分けは、1996年のアトランタ大会での分け方が基本になっている。ただし、そのときはT43クラスがなく、T44が片足義足と両足義足を含む形であった。

 そのため、競技としては片足、両足に関わらず速い者が優先されるルールだ。当初は両足切断の方が障害が重いので、両足下腿義足アスリートが不利だと考えられていた。事実、男子100m走に関しては、2013年にブラジルのAlan Oliveira選手が世界記録を打ち立てるまで、片足義足の方が速かった。

T44クラスは、片足下腿義足(機能障害含む)

 実際にT43クラスが作られたのは2012年のロンドンパラリンピック以降だ。しかし、パラリンピック競技は全体的にそうなのだが、障害を細分化すればするほど参加選手が少なくなり、競技自体に選手が集まらなくなる。そういった経緯もあり、現在のところT44とT43は同じ競技として扱われながら、世界記録のみが別に記録されている。

 両足が義足なのと、片足が義足なのでは当然走り方も変わってくる。片足が義足だと、もう片足は健足であるため、片足では地面を強く蹴り出すことができる。この場合、スタートダッシュでは明らかに有利だ。

 しかし、いったんスピードが乗ってくると、両足下腿義足の方が足が軽いうえに、義足の反発力をうまく利用できれば、ロスが少なくスピードを維持できる。このため両足が義足のT43が有利であるように思える。

距離か、スタートダッシュか

 実際、2016年9月現在、男子の100m走、200m走、400m走の世界記録はT43の方がT44よりも速い状態になっている。距離が長い200m走、400m走では前述した理由で明らかに両足義足のほうが有利であるように見えるが、スタートダッシュが一番重要な100m走では勝負はまだ拮抗している。

 リオパラリンピックでは既に男子100m走が終わっているが、1位と3位がT44、2位がT43だった。勝負の内容もスタートダッシュでT44が飛び出し、後半になってT43がものすごいスピードで追い上げてくる展開だった。そして、200m走と400m走では両方とも1位から5位までがT43であった。ちなみに女子の100m走と200m走では両足義足のT43の方が速く、400m走はT44の選手が世界記録を持っている。

T42クラスは、片足大腿義足だけでなく両足大腿義足も含まれる

 一方で「T42」クラスは大腿切断で、しかも片足義足の選手と両足義足の選手が同じレースで競争するため、義足も走り方もT44/43クラスよりもバラエティーに富んだレースとなっている。

 T42クラスの片足義足の選手は膝部にも義足を使用する。振り子の原理を利用して足をたたんでリカバリーし、反動を利用しながら膝を伸ばして接地する。

 恐らく高度な技術を要するだろうが、見た目は健常者の走り方に近い。例えば、日本代表の山本篤選手がこのタイプのアスリートである。

 一方で、両足義足の選手は女子のVanessa Low選手(ドイツ)のように、膝継手を使用して、健常者のように膝を折りたたんでリカバリーする選手もいるが、男子の200m走の世界記録保持者であるRichard Whitehead選手(イギリス)のように膝部をとりつけず、大腿部にパイプを通じてそのまま板バネを取り付ける選手が増えている。膝がまったく曲がらないので、足を伸ばしたまま横にぶんまわしてリカバリーを行う。

 もちろんスタートダッシュはスピードが出にくいが、いったんスピードに乗ってしまったら異常に速い。片足と両足のトップスピードの差は、T43/44クラスよりも顕著である。

リオパラリンピックT42クラス男子200m走決勝(動画:リオデジャネイロパラリンピック公式YouTubeチャンネルより)