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プラーナー シニアコンサルタント 木下悟志 氏

 公差設計の必要性を説明する際に、よく疑問点として聞かれるのが「一品物」における公差設計の意義です。「1個しか造らない製品の場合、設計段階で各部品に厳密な公差を設定する必要はない。なぜなら、部品の寸法が図面と異なっていた場合には、部品を修正したり組立時に調整したりすればよいからだ」というわけです。しかし、これは大きな誤解です。今回は、一品物でも公差設計が必要である理由について説明したいと思います。

修正や調整が生むデメリット

 まず、部品の修正や組立時の調整を行うことのデメリットを整理してみましょう。修正や調整の工数が時間的/コスト的なロスとなるのは当然として、これらの作業は臨機応変な対応が求められるため、作業を行う人のスキルや感覚によって結果が変わってしまいます。組み立て後の検査によって製品の品質を担保するにしても、図面やスペックに現れない部分での「差」がどうして内在してしまうことになるのです。

 加えて、一品物とはいっても類似製品を数多く造るケースが多いはずです。全く同じ(図面の)部品を流用したり、部分変更して利用したりすることは十分に考えられます。一品物を造る際に修正・調整した内容を図面などに記録せず、担当者の頭の中だけに残していた場合には、本来であれば“次の一品物”では避けられていたはずの作業を繰り返すことになります。資料として残せば解決できる可能性はありますが、適用範囲の設定や判断などが難しい場合もあり、根本的な解決に向けたハードルは低くありません。

 さらに、組立時の調整に頼るのは、製品の模倣に対するハードルを下げることにつながります。調整を前提とした設計、つまり設計段階で用意しておいた調整機構などによって性能や機能を実現する製品は、リバースエンジニアリングによって模倣しやすくなります。部品の形状と寸法を大まかにでもコピーできれば、あとは調整によって目的の性能を出せるからです。

 設計段階で適切な公差を設定しておけば、以上のような問題は全て解決できます。逆に言えば、これらを解決できるようにすることが公差設計なのです。修正や調整の工数を削減することはコストダウンにつながります。図面さえ流出しなければ、リバースエンジアリングしても各部品に設定した公差が知られることはありません。つまり、性能や機能を実現するノウハウを守ることができるのです。