総合格闘技や投てき競技も、トラッキングが“標準ツール”に

2018/12/03 05:00

渡辺 史敏=ジャーナリスト

 スポーツを分析する技術とそのサービスが広がりを見せている。これまで選手個々人の運動量や運動負荷を測定する技術としては、ウエアラブルな機器でGPS(全地球測位システム)や心拍数を測定する方法が多く使われてきた。米Humonは、新たな基準として筋肉中の「筋酸素飽和度(SmO2)」に焦点を当てている。

 Humonは米マサチューセッツ工科大学(MIT)スローンマネジメントスクールの研究プロジェクトから2016年に設立された企業で、精細な近赤外線光センサーの技術を持つ。その成果が太ももに取り付けるタイプのデバイスの「Humon Hex」と、パソコン(PC)やスマートフォン(スマホ)向けのアプリだ。

Humonが開発した、太ももに取り付けて筋肉中のヘモグロビン飽和量を計測する「Humon Hex」
(図:Humon)
[画像のクリックで拡大表示]

 Humon Hexを装着して運動すると、心拍数やGPSのデータと共に筋肉中の酸素量をリアルタイムで測定し、アプリに送信する。アプリは酸素使用量から運動負荷を計算し、緑、青、オレンジ、赤の4色の棒グラフで表示する。青は回復状態、オレンジはリミットに達している状態、赤はそのレベルを続けることができないことを示す。多くの時間を緑と青になるようにし、インターバルでオレンジ、赤に追い込むという風にすれば、よりトレーニングの質が向上するのだ。各レベルの算出基準はアプリがパーソナライズしてくれるという。

Humonのアプリ画面。酸素使用量から運動負荷を計算し、緑、青、オレンジ、赤の4色の棒グラフで表示する
(図:Humon)
[画像のクリックで拡大表示]

 Humonのアレッサンドロ・バビニCEOは「酸素消費はリアルタイムフィードバックを可能にします。心拍数モニターだけを使用する場合と比較して、運動選手はトレーニングにおいてより正確な数値を得ることができ、運動の負荷を判断できます」とコメントしている。

 同社は2019年発表予定の次期バージョンでは、トレーナーがいなくてもパーソナライズ化されたトレーニングメニューを作ってくれるサブスクリプション型のAI(人工知能)コーチを導入する予定だ。さらにスポーツ総合メーカーなどと提携し、同社の光センサーを内蔵し、特定の筋肉や臓器などよりターゲットを絞った測定ができるアパレルやシューズを開発する意向も示している。

総合格闘技UFCが分析技術導入

 一方、格闘技の分野に分析技術を導入したのが総合格闘技のUFCである。台湾のスポーツ用品メーカーCSG Taiwanと、Bluetooth対応のスマートデバイス「UFC Force Tracker」とそのアプリ「Xforce Tracker」の開発・販売でライセンス契約を結んだのだ。

UFCと台湾CSG Taiwanが開発した「UFC Force Tracker」。吊り下げ型や自立型のパンチングバッグに装着してパンチやキックをすると、スピードやパワー、耐久力(回数)が測定される
(図:Tri-Great USA CORP)
[画像のクリックで拡大表示]

 UFC Force Trackerを吊り下げ型や自立型のパンチングバッグに装着し、パンチやキックをすると、スピードやパワー、耐久力(回数)が測定され、アプリに送られる仕組みになっている。インターネットにも接続され、ランキングなども表示される。

 UFCというと高レベルのプロ選手というイメージが強いが、この機器とアプリについてはむしろ一般人のフィットネスを目的としたワークアウトを主なターゲットにしているのが特徴だ。ただ、総合格闘技向けにより高度なデータ情報を実装する計画もあるという。それが実現すれば、ファン向けに放送などでデータ表示するといった演出につながるかもしれない。

 これまで3次元ドップラーレーダーを利用し、ゴルフや野球の分析を行ってきた米FlightScopeが新たに取り組んだのが陸上の投てき競技である。「FlightScope Athletics」と呼ぶ分析システムは軽量でポータブルな3次元追跡レーダーによるハードウエアと先進的な弾道解析ソフトウエアを組み合わせたものだ。投げられたオブジェクトが着陸するまでを追跡できる。

FlightScopeは投てき競技向けの分析システム「FlightScope Athletics」を開発した。投入されたオブジェクトが着陸するまでを追跡できる
(図:FlightScope)
[画像のクリックで拡大表示]

 やり投げやハンマー投げなどの初速や頂点高度、飛行時間、リリース角度を測定することが可能だ。投てきを行った後、選手はビデオ解析とパフォーマンスフィードバックを同期させたダッシュボードを通じて、投てきデータをリアルタイムに観察することができる。さらにデータのグループ化機能により、そのトレーニングセッションを通じてどこに着地したかを見ることも可能だ。

 FlightScopeのヘンリ・ジョンソンCEOは発表で「アスリートが新しい領域に入ることを支援する製品を発表でき、誇りに思っています。選手のスキルを向上させて次のレベルに引き上げるための信頼できるデータを提供します」と語っている。米オレゴン大学でハンマー投げの選手だったブリトニー・ヘンリーFlightScope Athletics事業開発責任者は「多くの点で投てき選手の助けになります。これは私の投てきキャリアの中で望んでいたツールです」とコメントした。

アメフトでキック軌道を表示

 FlightScopeが陸上競技に乗り出したのに対して、同じくドップラーレーダーによる測定でメジャーリーグ(MLB)のトラッキングシステム「Statcast」に寄与しているトラックマン(Trackman)が新たにサービス提供を開始したのが、プロアメリカンフットボールNFLである。日曜夜に行われるサンデーナイトフットボールを放送するNBCに対し、フィールドゴールのキック弾道を同社が測定し、画像提供しているのだ。こちらはファン向けの新たな画像サービスと言えよう。

トラックマンは、NFLに対してキック弾道を同社が測定し画像提供をするサービスを開始した。NBC Sportsのプレスリリースより
(図:NBC Sports)
[画像のクリックで拡大表示]

 また、プロアイスホッケーNHLが2019-2020シーズンを皮切りに、リーグ自体がオーナーシップを持つパックと選手の動きをトラッキングするシステムを開始すると発表した。スポーツ賭博の解禁もあり、こうした分析データの重要性が高まっていることもあって今回の判断に至ったようだ。ただ、NHL自身が技術開発できるわけではないため、今後どのような技術系企業と提携していくのか注目だ。