23億ドル NFLパンサーズ、北米スポーツ史上最高の買収劇

2018/06/28 05:00

渡辺 史敏=ジャーナリスト

 米国時間の2018年5月22日、アトランタで開催されていた米プロアメリカンフットボールNFLの年次総会でチームオーナー達による投票の結果、カロライナ・パンサーズのデビッド・テッパー氏による買収が承認された。テッパー氏はヘッジファンドマネージャーで、NFLのピッツバーグ・スティーラーズの少数オーナーでもあった人物であり、承認によりパンサーズの新オーナーに就任することとなった。

NFLカロライナ・パンサーズの試合の様子(写真:NFL)
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 今回の買収劇はスキャンダルに端を発している。元NFL選手でファーストフード・チェーンや食品ビジネスで成功し、1995年のチーム発足時以来オーナーを務めていたジェリー・リチャードソン氏に2017年12月、職場での性的差別と人種差別発言疑惑が出たのだ。リーグがこの件で調査を開始すると、リチャードソン氏はチームを売却する意向を発表。買収希望者の選定作業が開始された。

 サウスカロライナの実業家、ベン・ナバーロ氏やスポーツマーチャンダイズ企業・ファナティクスのマイケル・ルービン代表など複数の候補者が報道され、激しい買収競争が繰り広げられた模様だが、最終的にテッパー氏がチームを手にしている。

 買収額は22億7500万ドルの模様だ。これは昨年9月の北米プロバスケットボールNBAのヒューストン・ロケッツの買収額22億ドルを上回り、北米スポーツ史上最高となった。NFLに関しても、2014年にガス開発や不動産で財を成したペグラ夫妻がバッファロー・ビルズを買収した時の14億ドルを8億ドル以上も上回っている。

予想を下回る買収額

 ただ、この買収額は予想を下回ったとする報道が多い。リチャードソン前オーナーは当初30億ドル以上での売却を望んでいると報じられていた他、25億~27億ドル程度で決着するのではと言われていたからだ。米経済誌フォーブスが昨年9月に発表したNFLのチーム資産価値ランキングで、パンサーズは平均の25億ドルを下回ったものの23億ドルと判定されている。今回の買収額はそれよりも低いのだ。

 通常、成長を望めるチームの買収額はその時点での資産価値を下回ることは少ない。ビルズの場合、2014年当時の資産価値は9億3500万ドルだった。

 2017年に、NFLの総収入は140億ドルに達したと見られている。テレビ中継の視聴率は2年連続で下がったものの、その人気は圧倒的で、広告収入は逆に増えた模様だ。さらに木曜夜に行われるサーズデーナイトフットボールの放映契約をFoxと、同ゲームのライブストリーミング契約をアマゾン・ドット・コムと新たに結ぶなど、成長傾向は依然続いている。

 さらにパンサーズに関しても、2015年シーズンに優勝決定戦スーパーボウルに進出したこともあって人気は上昇しており、本拠地バンク・オブ・アメリカ・スタジアムを1億8000万ドルをかけてリノベーションし、収益力も引き上げた。そのためフォーブスは2016年から2017年にかけて資産価値が11%も上昇したと判定しているのだ。

リーグの買収規制が最大の要因

カロライナ・パンサーズのヘルメット(図:NFL)
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 にもかかわらず、史上最高額とはいえ、なぜ今回の買収額は資産価値よりも低くなったのか。そこには、いくつかの要因があるようだ。まずNFL独自の要因は、リーグがテレビ放映権を一括管理していることにある。放映権収入の約80%がチームに公平に分配される仕組みだ。これはNFLがリーグ全体として成功してきた大きな要因でもある。

 しかし、米プロ野球MLBやNBAでは近年各チームが地元ケーブルチャンネルと莫大な金額で契約し、その資産価値を上げる例が増えている。NFLではそうした契約が結べないため、いわばチーム独自のビジネス展開に制限がかかっている格好だ。

 またパンサーズはノースとサウスの2つのカロライナ州を代表するチームを標榜しているが、実質的な本拠地はノースカロライナ州シャーロットである。同市の人口は73万人余りで、飛び抜けた大都市のチームではない。この点もビジネスにとってはマイナス要素となる。

 さらに今回最大の要因と見られているのが、リーグにおけるチーム買収に関しての規制である。NFLやNBA、MLBなどはいずれもチームを買収しようとする人々や投資家グループに厳しい条件を設けている。NFLの場合、筆頭オーナーはチームの全株式の30%以上を保持することに加え、その購入に際して借り入れ額の上限を3億ドルと定めている。少数オーナーの人数も制限があり、日本のプロ野球のように企業がオーナーになることもできない。

アップル株を大量売却

 つまり20億ドルでチームを買収しようとしたら、3億ドルのキャッシュを保有していなければならない。そのうえ残りの額を負担してくれる少数オーナーを何人か見つけ、投資家グループを競争の中で結成する必要もある。

 米国は大富豪が多いとはいえ、さすがにこの額となると短期間で用意できる人物はなかなかいない。テッパー氏は真の用途は不明なものの、今年第1四半期に米アップルの株式を約460万株売却したことが判明している。約8億5300万ドル相当の金額だ。一方、今回テッパー氏と競ったとされるマイケル・ルービン氏はファナティクスとの提携で資金を調達できたものの、ベン・ナバーロ氏はキャッシュを用意できなかったと報道された。

 こうしたリーグによるチーム買収時の条件はチームの売買を難しくしており、NBAロケッツの時も難航した上、資産価値と同じ22億ドルで落ち着いた経緯がある。それぞれのリーグ、チームが成長し、資産価値が上がった故の苦しみともいえるだろう。このため、各リーグが条件の緩和に動くのではと噂されるようになっている。「史上最高額を更新」と簡単には喜べない状況に突入しているといえるだろう。