「第4Qだけ見れます」 NBA、若年層獲得に大胆な挑戦

2019/02/14 05:00

渡辺 史敏=ジャーナリスト

 米プロバスケットボールのNBAが、試合のライブストリーミングを通じて新たな観戦スタイルを模索する取り組みを続けている。

 まず、2018年10月の2018-2019シーズンの開幕に合わせて導入したのが有料ストリーミングサービス「NBA League Pass(リーグパス)」の新たなパッケージだ。同サービスは元々、地元チーム以外のテレビ中継を見られるケーブルテレビや衛星放送の視聴者向けに1995年に開始され、その後インターネットのストリーミングへと発展してきた。これまではシーズン全体で全試合を視聴料249.99ドルで見られる「プレミアム」や、好きなチームの試合を119.99ドルで見られる「チームパス」、好きな1試合を6.99ドルで見られる「シングルゲーム」といった視聴パッケージが設定されていた。

NBAの有料ストリーミングサービス「NBA League Pass(リーグパス)」の画面例
(図:NBA)
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 そこに今シーズン、新たに加えられたのが、好きな試合の第4クオーター(Q)だけを1.99ドルで見られるパッケージである。これまでのように試合全体を楽しんでもらうというのではなく、試合終盤だけでもいい、というリーグとしては大きな姿勢の変化だ。実際、NBAの試合が白熱するのは勝利に向けてプレーのスピードが速くなる第4クオーターになってからが多い。そのため「NBAの試合で面白いのは第4クオーターだけ」などと揶揄(やゆ)されることもあった。まるで、そのことを認めたようでもある。

ターゲットはミレニアル世代

 しかし、NBAとテレビ放映権を持ちリーグパスを製作・運営するターナー・スポーツ傘下のテレビチャンネル、TNTの狙いは別にあるようだ。それはミレニアル世代と呼ばれる1980年代から2000年代初頭までに生まれた若者層の取り込みである。オンライン動画やSNSに慣れ親しんだこの世代は、短い視聴時間を好む傾向にある。

 そのため、試合中継で2時間も3時間も画面の前に留めるのは難しいという意見が多い。米国ではNBAのみならず、多くのプロリーグで試合時間の短縮が大きなテーマになっている。若年層は可処分所得が低く、高額なパッケージの利用料を支払いにくいという事情もある。

 第4クオーターのみの視聴パッケージは、まさにそんな世代に向けて気軽に試合中継を楽しんでもらうための施策なのである。ターナーのデービッド・レビイ社長は声明で「ファンは自分の視聴の好みに最も合うように体験をカスタマイズできます」とその点を強調した。またNBAコミッショナーのアダム・シルバー氏は、やはりカスタマイズされた体験はNBAファンのニーズに合っているとしたうえで「試合後ハイライトを見るのを待つ代わりに、ファンはリアルタイムで試合の一部を楽しむことができるようになる」ともコメントしている。

 さらに2018年12月には、第2クオーター以降を4.99ドルで、第3クオーター以降を2.99ドルで視聴できるようにするなど、視聴の柔軟性を広げている。試合の好きなタイミングで10分間だけ視聴できるようにするパッケージの開発も行われているということだ。

見たい選手のプレーだけ撮影

 アダム・シルバー氏と米ツイッター CEOのジャック・ドーシー氏は、2019年1月に開催されたコンシューマーエレクトロニクス関連の展示会「CES 2019」で、2月からツイッターで「iso-cam」と呼ばれるカメラ映像のライブストリーミングを開始すると発表した。これはまず、TNTが放送する試合の前半について、ユーザーから「@NBAonTNT」アカウントに自分が見続けたいと思う出場選手を投稿してもらう。その結果、最も投票の多かった選手を後半を通してiso-camが撮影し続け、それをライブストリーミングするものだ。選ばれた選手がベンチに下げられたら、ハイライトや舞台裏の動画が配信される予定という。

NBAコミッショナーのアダム・シルバー氏と米ツイッター CEOのジャック・ドーシー氏は、CES2019のセッションに登壇し、両者のパートナーシップについて語った
(図:CEA)
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 これにより試合全体の中継は従来どおりTNTのテレビ中継で追いつつ、スマートフォン(スマホ)やタブレットではツイッターのiso-cam配信で好きな選手を追い続けるという新たな視聴体験を作れる。これもテレビを見ながら「セカンドスクリーン」と呼ばれるスマホやタブレットを利用することが多いミレニアル世代を意識した取り組みだ。

 この新ストリーミングは、2月17日に行われるオールスターゲームを皮切りに20試合での実施が予定されている。

 NBAのストリーミングにおける先進的な取り組みは、これだけではない。3年前に開始されたVR(仮想現実)ストリーミングも拡充している。最初は使用できるVRヘッドセットが韓国サムスン電子の「Gear VR」に限定されていたが、現在は「PlayStation VR」(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)や「HTC Vive」(台湾HTC)など、対象を8機種にまで拡大。配信されている試合も毎週1試合以上、合計36試合となっている。

NBAはVRヘッドセット向けの試合映像のストリーミングを強化している。対応のヘッドセットを8機種にまで拡大した
(図:NBA)
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 シルバー氏は特にVRは有望と見ているようで、2018年11月にテレビ番組に出演した際、「試合に実際に行けるのは世界のファンの中でたった1%だけです。そして(ロサンゼルス・レイカーズの大ファンである俳優)ジャック・ニコルソン氏のようにコートサイドの席に座れるのは、さらにその数パーセントに過ぎない。どうやったらそういう体験を再現できるかが我々の挑戦なのです」と語り、VRの没入感への期待をアピールしていた。