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アフター2020、未来からの逆算

スポーツ産業の成長=国民全員が「自己記録更新」

経済産業省大臣官房審議官 前田泰宏氏に聞く

2016/10/14 00:00

内田 泰=日経BP社デジタル編集センター

 アベノミクスを支える成長産業の1つとして明確に光を当てた――。名目GDP(国内総生産)600兆円の達成に向け、政府が2016年6月に閣議決定した「日本再興戦略2016」のなかで、スポーツ産業は10個の官民戦略プロジェクトの4番目に挙げられている。これまで教育的観点が強かったスポーツ政策だが、スポーツ庁と経済産業省の協力のもと、成長産業として振興に本腰を入れる。経産省大臣官房審議官2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会プロジェクトチームの前田泰宏氏に、スポーツ産業への期待や課題などについて聞いた。(聞き手:日経BP社デジタル編集センター 内田泰)

――経産省として、スポーツ産業をどのように活性化していく方針ですか。

経産省大臣官房審議官2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会プロジェクトチームの前田泰宏氏
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前田 政府がGDPで600兆円への成長を目指すなかで、スポーツ庁と経産省が一緒になって産業を盛り上げていく。日本は人口減少モードに入ったと言われるが、人口が減ってもスポーツ人口は確実に増えていく。高齢者人口が増え、「健康寿命」を延ばす重要性も高まっている。これまで経産省はスポーツ産業を“無視”していたが、観光産業と同様、成長産業であることに疑いの余地はない。

 ただ、具体的な政策についてはすでに書かれたもの(注:「スポーツ未来開拓会議 中間報告」などの資料)があるので、ここではその裏にあるメッセージについてお話したい。私はスポーツ産業の成長においては、「国民全員が自己記録を更新できるかの戦い」がカギになると思う。

――どういう意味でしょうか。

前田 2020年にオリンピック・パラリンピック(オリパラ)が東京にやってくることで、五輪競技を生で観て楽しむ素晴らしい機会が訪れる。そのとき、誰もが当事者性を持って自らの「記録」を確認し、更新しようと努力することが大事だと思う。ここで言う記録はスポーツでもいいし、苦手であればスポーツでなくても良い。

 これには国民の「マインドチェンジ」が必要だ。例えば、日本の大企業には地頭はいいが“コスト(=お荷物)”と化してしまったおじさん達がたくさんいる。そういう人たちを無理のない範囲でいかに覚醒させていくかは社会の大きな課題である。

 経産省がスポーツを「成長産業」と定義したのは、このように大企業でくすぶっている人たちが生き生きと働ける場を作りたいと思ったからだ。大企業に勤めているおじさん達でもスポーツビジネスに携わっている人たちに会うと、実に生き生きとしている。スポーツ産業が新しい分野だからだ。

 従来、スポーツビジネスといえば、スポーツ用品の販売が主流だったが、今ではその領域が広がっている。前例がないものも多い。つまり、スポーツが行政や企業に対して新しい切り口を提示し、そこに企業人のマインドチェンジが融合すれば必ずや革新が起きる。

 かつてJALやANAで客室乗務員として活躍した女性たちが、東京オリパラでボランティアとして活動することを企画していると聞いた。彼女たちは英語ができるし、おもてなしにもたけている。人材教育もできる。“眠っている層”を起こす非常に良いアイデアだと思う。こういうことが起こるムーブメントを国民の認識レベルに置けるかが重要。こうしたムーブメントは国民全体の導線を変え、消費を活性化させるからだ。

――東京パラリンピックの成功にとっても、マインドチェンジは必要になりそうですね。


前田 そうだ。先日、リオデジャネイロでパラリンピックを視察してきた。体に障害を持つ人たちが素晴らしい競技を見せてくれた。車いすバスケットなどは、まるで殴り合いのように迫力があった。

 しかし、パラリンピックを観戦すると、正直、自分の中にまだまだ偏見のようなものが残っていることに気づく。パラリンピックこそがダイバシティーを体現しているのであり、我々日本人にとってはいわゆる「心のバリアフリー」を実現できるかが一番の課題かもしれない。東京パラリンピックの競技は、入場を無料にしてでも学生など若い人に見せるべきだと思う。

 見方を変えれば、自分を健常者と思っている我々も、何らかの不足点を持っている。そういう意味では「国民全員がパラリンピアン」だとリオで感じた。

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