ジン・コンサルティング 代表、生産技術コンサルタント西村 仁氏
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 職業柄、本を出版する機会があります。本を執筆するメリットの1つは、普段巡り合えないような本に出合えることです。

 本を書く際には、これまでに出版されている関連書に目を通します。これは大学院生などが論文を書く際に、既に発表されている関連論文を読破することに似ています。関連書を読んだ上で、自分が執筆する本の原稿に独自性を出していくのです。読んでいるときに「分かりやすい」とか「面白い」とか感じた関連書の場合は、最後のページに紹介されているお薦めの本も読むようにしています。こうして目を通す範囲を広げることで、知識がさらに深まっていきます。

 今回は筆者が技術書を執筆する際に出合えた魅力的な本の中で、学術書ではなく「一般書」からその一部を紹介したいと思います。

 まずは、迷うことなく『イラストでみる はるか昔の鉄を追って』(鈴木瑞穂著、電気書院、2008年)をお薦めします。製品や生産設備に使用する材料知識に関する本を書く際に、中高生にも分かるように書いてある本を私は探しました。社会人でも難しい材料知識を子供たちでも理解できるように書いている本があれば、そこから書き方のヒントを得られると思ったからです。これは大正解でした。

 私たちの身の回りの鉄鋼材料は、海外から導入された洋式製鉄法で造られています。具体的には、鉄鉱石を原料に高炉という設備を使って造ります。それに対し、日本には独自の「たたら製鉄」という砂鉄を原料とした製鉄法がある。この本はこの和式製鉄法について解説しています。筆者の鈴木氏は、遺跡に残された昔の鉄鋼品などを分析・調査しています。日本古来の鉄づくりの技術やその時代の人々の生活、鉄を取り巻く文化を伝えたいという熱い思いでこの本を書いたとのことです。

 世界から注目されている日本刀には最高品質の鉄が必要です。ここに使われているのが、たたら製鉄で造る鉄です。今では山陰の1企業しかたたら製鉄で鉄を造っていません。たたら製鉄では鉄はどのように造られるのか、なぜ高品質なのか、高品質でありながらなぜ工業製品には使われていないのかなど、著者自身が描いたイラストを使って分かりやすく解説しています。

 また、鉄づくりだけではなく、製品にするために必要な鋳造や鍛造といった加工方法についても詳しく紹介しています。焼き入れや焼き戻しといった熱処理についても、なぜ熱して冷やすと硬く粘り強い性質になるのかについて、金属学の知識がなくても理解することができます。これほど分かりやすい解説には初めて出合いました。イラストだけではなく、図表もとても工夫してあり、初心者であれば学術書よりもはるかに理解しやすい内容です。こうしてコラムを書いている今も、この本を読み返しながら、ついついのめり込んでしまいます。小学校の高学年から読める内容ですが、私たち社会人の知的好奇心も十分に満たしてくれる本です。

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