機械設計者の修行とは

 それでは、図1を払拭するための、設計者にとっての修行とは何かを考えてみましょう。図2は本コラムの第1回で掲載した技術者のピラミッドです。

 入社式では、社長から図2の左側の訓示を頂いたかと思います。また、皆さんもそれに沿った大きな志を描いたことでしょう。しかし、今は若干異なります。図2の右側が重要なのです。注目すべきは、技術者の初めと終わりに位置する「コミュニケーション能力」です。技術者の頂点は技術ではなく、コミュニケーション能力なのです。

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図2●技術者における頂点はコミュニケーション能力
 つまり、技術者の修行の1つはコミュニケーション能力であり、技術者一生に渡る修行です。これって実は、寿司職人と同じではないでしょうか?

真の心得の習得を目指す修行とは

 設計者とは、少なくとも学者ではありません。職人です。料理人や大工を代表に、新前(新人)の職人はその職業の心得を長い年月の修行で習得します。例えば、ホテルの料理人などが厳しい修行に耐えきれず、半数以上が1年以内で厨房を去ると言われています。それほど、重要な職人への過程です。

 また、職人とは「道具」を使いこなして「一人前」と言われますが、日本人設計者に道具はありません。例えば、低コスト化設計には、少なくとも7つの道具が存在しています。具体的には「VE」や「QFD」「品質工学」「TRIZ」「標準化」「モンテカルロシミュレーション」「コストバランス法」です。しかし、ほとんどの企業で1つも採用されていません。

 私は、ある大手企業の「技術者育成会議」に出席しました。その企業も、日本のある大手企業から始まった「成果主義」を導入していましたが、案の定、ゆがんだ制度に変貌していました。その代表的な負の現象は、「出世逃げ」です。

 出世逃げとは、部下を育成せず、自分だけが昇進すればよいと考える技術者のことです。事実、こうした人が増加しました。そして、この延長線上に技術の衰退が起きました。若手技術者の育成は人任せ。まるで、宅配弁当のようです。気がつけば料理の手順を忘れ、料理の道具がなくなり、食器すらなくなり、やがては言葉も消失していました。

 しかし、日本企業がこうした状況を放置しておいてよいはずがありません。

 そこで、その企業と当事務所で打ち出した新人設計者向けの「心得」が、本コラムに関する次のテーマです。「心得」の全てを満たすことはできないかもしれませんが、ここからリベンジを開始することを相互に誓いました。

【新人設計者のための真の心得(修行)】
①設計者を取り巻く人々とのコミュニケーション能力の向上。
②設計部を取り巻く関連部門の役割を理解する。
③商品(部品、生産、システムなど)開発のフローを理解する。
④最適材料の選択方法と材料原価を身に付ける。
⑤設計者の代表的なアウトプットは、設計書/図面/特許である。
⑥常に、QCDPa(特許)で自己管理することを身に付ける。
⑦設計の各種道具を使えること。

 このうち、①について本コラムの第1回から第17回にわたって解説してきました。次回(第19回)からは、②以降を詳しく説明していきます。ご期待ください。