太田選手のプレーパターン分析

 分析は当初、かなりの難問が山積していました。データ解析を担当した筆者は、フェンシングの経験はおろか、俗にいう“運動神経が切れている”タイプ。試合の勘所など予想もつきませんでした。試合を見ると、間合いを取りあう静かな時間が数十秒続いたと思ったら、次の瞬間には攻撃を仕掛けて突き合います。得点が入るまではほんの一瞬なのです。駆け引きの重要性、1歩の重みが感じられました。剣の軌跡は大変複雑で、これを形にするために「右手を軽く振って、1歩前に出る。相手が下がったので突いてみる。交わされたところを突き直して得点」と言葉で並べてみました。もちろんこの流れは得点シーンごとに異なるため、パターン化は複雑すぎると途方に暮れました。

 そんなとき、フェンシング日本代表アナリストの千葉洋平さんから、「選手は剣を振ろう、足を出そうという意識よりも攻撃動作の流れの中で動いている」ということを教えてもらい、視界が開けました。1つひとつの動作に固執するよりも、選手同士が牽制しあう静かな“凪”の状態から、攻撃を畳み掛ける“荒波”への変化を読み解く方が選手の試合感に近く、全体的なパターンを見いだせると仮説を立てました。

十二支のキャラクターで選手を分類

 プレーのパターンの波を読み解く前提として、各選手のキャラクター分けとそれに基づく相性の分析に取り組みました。太田選手の試合映像を観察するうちに、格下であるはずの選手に苦戦を強いられている状況が目に付きました。確かにスポーツの試合を観ていると、「このタイプには弱い」といった解説を聞くことも多い。太田選手のプレーパターンも相手のタイプによって変わってくると考え、その苦手意識を具体化するべく、相手の選手を12のタイプに分類しました。例えば、「剣の構えは攻撃的か防御的か」「距離を詰める時はスピードで攻めるのか、リーチを生かすのか」などです。

選手のキャラクターを表す十二支タイプの概要。縦軸は剣を突くスピード、横軸は試合中の構え方を基に試合運びの傾向を示した。相手までのリーチの長さが身長に比例すると仮定し、身長の情報も合わせて選手を12タイプに分類した。(図:LIGHTz)
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 12タイプということで、十二支の動物にたとえることにしました。太田選手のプレーには軽快なリズムがあり、小柄だけれど攻めるスピードに長けた「うりぼー(イノシシ)」タイプ。例えば、相手を誘い込むことに長けたアレクサンダー・マシアラス選手(米国)のような「ヘビ」タイプと対戦する際には、太田選手は果敢に飛び込んで攻めていきます。動きが少なく、攻めると細かく噛み返してくる「ネズミ」タイプのピーター・ヨピッヒ選手(ドイツ)に対しては、攻めにくく苦手とする傾向が見られました。これらの組み合せをベースに、太田選手のプレーパターンの分析に取り組みました。

太田選手(「うりぼー」タイプ)と他のタイプとの相性。うりぼータイプは相手の攻撃を待ち、自分の間合いに誘い込む小柄なタイプにカウンターを受けやすい。一方、スピードで押し切れる相手、挑発し合う相手は得意な傾向を持つ。(図:LIGHTz)
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