E Ink社のマイクロカプセル方式の電子ペーパーの構造

 一般には,不揮発(メモリ)性を備えるディスプレイのこと。表示を切り替える時のみ電力を消費するため,消費電力が低い。また,反射型であり紙の文字に近い見やすさを備える。電子書籍端末のほか,電子棚札や時計表示などに使われている。

 電子ペーパーといえば,台湾E Ink Holdings Inc.の電気泳動方式(液体中の着色粒子を移動させて表示する方式)が最も知られており,電子ペーパーの代名詞にもなっている。

 しかし,電気泳動方式の初めての実用例をたどると,1970年代前半にさかのぼる。しかも,その主役はE Ink社ではなく,パナソニックだった。同社が開発に着手したのは1968年のこと。当時,電子写真の液体現像液を開発していた太田勲夫氏が,絶縁性の液体に粒子を分散させるという現像液の技術をディスプレイに応用しようとしたのが始まりである。発案のキッカケは,同年に米Radio Corporation of America(RCA)社が「液晶材料を利用してディスプレイができる」と発表したことである。現在の液晶パネルの原点となる発表だった。太田氏はこの発表に驚愕しすぐに調査を始めたが,液晶技術より電気泳動方式のディスプレイのほうが有望と判断し,開発に専念した。翌1969年には,電気泳動方式に関する多数の特許を出願している(特許第800963号など)。

 1970年代前半にはパナソニックが商用化を始めると同時に,電気泳動方式の研究に追従する複数のメーカーが現れたことで,研究は盛んになった。ところが1976年,同社は開発を中止した。理由は大きく二つある。一つは,RCA社の発表をキッカケに盛り上がった液晶パネルの研究開発が猛烈な速さで進み,ディスプレイ技術の主役として市場を席巻し始めたこと。例えば,液晶パネルを搭載した電卓をシャープが発売したのは,1973年のことである。

 開発を中止したもう一つの理由は,液体中の粒子が偏ったり凝集したりする課題が解決できなかったことである。このため品質が安定せず,市場投入した製品は数カ月後に不具合で戻ってくる状況だったという。開発に追従したメーカーも同様に,この課題を解決できないまま,電気泳動方式はいったん表舞台から姿を消した。

 再び電気泳動方式に火が灯ったのは,1990年代後半。多数のマイクロカプセルで粒子を閉じ込めることで,粒子の偏りや凝集を生じにくくする技術が確立したためである。この技術をコアにして1997年に設立されたのが,E Ink社である。

 現在,市場に最も流通しているほとんどの電子ペーパーは,E Ink社のものだが,それ以外にも実用段階の電子ペーパーは幾つか存在する。例えば,米SiPix Imaging社の「マイクロカップ」方式の電子ペーパー,ブリヂストンの「電子粉流体」方式の電子ペーパー,富士通フロンテックのコレステリック液晶方式の電子ペーパーなどである。

 現時点における電子ペーパーの最大の課題は,カラー化である。米Apple Inc.のタブレット端末「iPad」の登場によって,電子ペーパーにとって最も大きな市場である電子書籍端末の分野で,今後も順調にシェアを伸ばしていけるか不透明な状況になったからである。カラーや動画の表示を得意とする液晶パネルを搭載したiPadは,電子書籍市場において,カラフルな写真や動画などを組み込んだ電子雑誌という新分野を確立しつつある。今後は,液晶パネルを搭載する類似の端末が続々と登場してくる。

 これまで電子ペーパーは,文字の読みやすさや目の疲れにくさなどを武器に,テキストを中心とした電子書籍の分野で一定の地位を築いてきた。そして将来は,カラー化を徐々に進めていけば雑誌などよりリッチなコンテンツも取り込めるとの思惑もあった。しかし,iPadの登場とともに国内外を問わず多くの出版社が雑誌コンテンツの提供を開始していることで,電子ペーパー陣営は危機感を覚えているのが実情である。

 こうした中,カラー電子ペーパーの開発が加速している。最大手のE Ink社は,2011年にもカラー電子ペーパーの量産を始める見込みである。このほか,米Qualcomm MEMS Technologies, Inc.(QMT社)は,MEMS技術を用いたカラー電子ペーパー「mirasolディスプレイ」の量産を2010年後半に始めるとしているほか,オランダLiquavista BVは2011年の量産を目指す「エレクトロウエッティング方式」のカラー電子ペーパーをSID 2010で披露した。