用語解説

 ポリ乳酸は,トウモロコシ,イモ類,ビート,サトウキビなどの植物から取り出したでんぷんを発酵することによって得られるL-乳酸をモノマーとして重合させて合成するポリマーである。「PLA(PolyLacticAcid)」とも表記される。発酵直後の乳酸には,L-体とD-体の二つの光学異性体があるが,L-体といわれる立体分子構造の乳酸から得られるポリマーが優れた特性を示すため,L-乳酸が合成原料になる。生物由来の原料から作られるバイオベースポリマーの一種である。

 特徴は,(1)生物由来の原料から製造されるために,石油資源の使用量の節約につながる,(2)二酸化炭素の排出制御に役立つ,(3)剛性および引っ張り強度が高い,(4)透明性が高い---の4点。

耐衝撃性と耐熱性を向上

 一方ポリ乳酸の欠点は,耐熱性と耐衝撃性が低いこと。このため,石油系のエンジニアリングプラスチックや植物由来の繊維「ケナフ」などを複合化させて,耐熱性と耐衝撃性を向上させようという取り組みが活発化している。基礎研究レベルでは,ポリ乳酸の結晶構造や分子構造に踏み込んで特性を向上させようという動きがある。

 ポリ乳酸は,バイオベースポリマーの中で唯一,工業用材料として量産プラントが立ち上がっている。最大手メーカーは,米Cargill-Dow社であり,米国に年産14万tのポリ乳酸生産プラントを持っている。日本ではトヨタ自動車が島津製作所からポリ乳酸事業を引き継ぎ,2004年には年産1000tの実証プラントを建設している。このほか,東レ,三井化学,大日本インキ化学工業,東洋紡績などがポリ乳酸事業に参入している。

供給・開発状況

2006/05/19

 ノートパソコン,AV機器,携帯電話機の筐体,さらには自動車部品にポリ乳酸をを使う動きが活発になってきた。

富士通,ノートパソコンに続き携帯電話にもポリ乳酸を適用


【図1】ポリ乳酸とポリカーボネートをアロイ化した樹脂で成形した携帯電話向け筐体(富士通)(クリックで拡大表示)

 例えば,富士通は,ポリ乳酸とポリカーボネートのポリマーアロイから成る樹脂を2005年春モデルのノートパソコン「FMV-BIBLO NB80K」の筐体に採用した。富士通と富士通研究所,東レの3社で共同開発したものだ。

 それに続いて富士通は東レと共同で,ポリ乳酸とポリカーボネートのアロイ化技術改良することにより,耐衝撃性を従来比1.5倍に高めた樹脂を開発,携帯電話機の筐体などへの適用が可能になったと2006年5月に発表した(図1)。今後,さらに改良を進め,2007年までに携帯電話機への適用を目指す。ポリ乳酸とポリカーボネートの混合比率は1対1で,両ポリマーの相溶性を付与したのがポイントだとしている。

NTTドコモ,ケナフ強化ポリ乳酸を使った携帯電話機を発売へ

 NTTドコモは2005年12月,世界で初めてケナフ繊維強化のポリ乳酸を使った携帯電話機FOMA「N701iECO」を開発と発表,2006年3月にピンク色の筐体の製品を発売した(図2)。ポリ乳酸を約37g使い,表面積の約75%を覆う。


【図2】ケナフ繊維強化ポリ乳酸製筐体を使った携帯電話機「N701iECO」(クリックで拡大表示)

 ケナフは茎に繊維質が多いため,中国や東南アジアでパルプ原料として生産される。また,一般の樹木に比べて3~9倍の二酸化炭素吸収速度があるため,木材資源の枯渇防止,地球温暖化防止に役立つ。 このケナフ繊維を約10%ポリ乳酸に添加することで,耐熱性や強度を改善した。なお,同樹脂はNECとユニチカが共同開発した。

 携帯電話機の筐体は耐難燃性についての厳しい要求はないが,携帯電話機を落とした際などに筐体が破損しないための耐衝撃性の確保が強く求められる。NECでは,短いケナフ繊維を排除するとともに,植物由来の原料を含む可とう性付与剤を加えることで,耐衝撃性を大幅に向上した。ポリ乳酸だけでは不足してしまう耐熱性については,ケナフ繊維を添加することで約20℃ほど高められたとしている。

マツダ,自動車部品向けにポリ乳酸系樹脂を開発


【図3】ポリ乳酸を主成分とするバイオプラスチックと自動車部品の成形例(マツダ)(クリックで拡大表示)

 ポリ乳酸を自動車部品に使おうという機運も高まっている。例えばマツダは,外観品質や強度,耐熱性を高めたポリ乳酸系の新樹脂を開発した(図3)。携帯機器向けに開発されたポリ乳酸系樹脂は,自動車部品に使うには強度や耐熱性が低いという。そこで同社は,従来よりも耐衝撃性が約3倍,耐熱性は約25%高い新樹脂を開発した。これは,結晶化促進核剤や相溶化剤を配合することで実現したという。加えて,剛性が高いため,部品を薄く成形できるのも特徴である。

 開発したポリ乳酸系樹脂の原料は,とうもろこしが88%,石油が12%。射出成形できるため,量産に向くことから,マツダは,数年後の採用を目指している。原料の製造過程で,とうもろこしのでんぷんと糖質の発酵を利用することで,使用するエネルギが自動車部品で多用されるポリプロピレンと比べて30%程度減らせるとしている。

 開発は,マツダが参加する広島県内の産学官共同開発プロジェクトで行われた。このプロジェクトには,西川ゴム工業,広島大学,近畿大学のほか,広島県立西部工業技術センター,日本製鋼所,酒類総合研究所などが参加している。

ニュース・関連リンク

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