用語解説

 PVAは,ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol)の略称。化学式は(CH2CHOH)nである。PVAそのものはもともと合成繊維「ビニロン」の原料として量産されている水溶性ポリマーだ。製法は,酢酸ビニルモノマーを重合し,得られたポリ酢酸ビニル樹脂をケン化することにより製造される。

 ビニロンの原料としての用途以外に,水溶性であるために液晶となじみやすいことから,液晶層を挟む偏光板の基材としての用途が開拓され,他に代替材料がないことから大型用途に育った。同用途向けには,まずPVAポリマーをヨウ素で染色し,フィルム化する際に延伸することによりヨウ素分子が一定方向に揃う。このフィルムに光を当てると,揃った分子軸方向の光を吸収し直角方向だけの光を透過する光シャッター機能を持つことになる。

「偏光制御」で重要な働き


【図】PVA偏光フィルムの模式図。上は概略図。PVA偏光フィルムの光シャッター機能によってバックライトから来た光のうち,一定方向に振動する光だけを取り出し,ガラス基板を通って液晶に入る。液晶分子が90°ねじれることにより,その部分の光のみ振動方向が変わってもう一方の偏光フィルムを透過することができる。下図は,偏光フィルム部の拡大図で,PVA偏光フィルムを保護フィルム(TACフィルム)で挟んたサンドイッチ構造である(クリックで拡大表示)

 液晶パネルの作成に当たっては,透過させる光の振動方向が違う二つのPVA偏光フィルムで液晶層を挟む。バックライトから来た光は360°すべての方向に振動する光だが,PVA偏光フィルムを通ることによって,一定方向に振動する光だけを取り出し,ガラス基板を通って液晶に入る。電圧がかかった液晶分子が90°ねじれることにより,その部分の光のみ振動方向が変わってもう一方の偏光フィルムを透過することができる。つまり,液晶分子のねじれを電圧を制御することによって表示が可能になる,という仕組みである(図)。なお,PVA偏光フィルムは吸湿性があるなど外部の環境で特性が変わるために保護フィルム(TACフィルム)で挟んで保護する必要がある。

供給・開発状況
2006/05/12

クラレは9100万m2/年,日本合成化学は4000万m2/年へ

 薄型テレビなどの好調を受けて,液晶パネルメーカーの需要が急増し,それを受けて偏光板の基材としてのPVAフィルムについても増産計画の発表が相次いでいる。PVAフィルムについてはクラレが85%のダントツのシェアを持っており,それに日本合成化学工業が続いている。世界市場でもこの2社でほぼ独占している。

 最大手のクラレは2006年3月14日,偏光板用PVAフィルムの生産能力を現在の約1.5倍に増強すると発表した。生産会社であるクラレ玉島の生産能力を2007年6月までに現在の3000万m2/年から倍増し,クラレ西条の3100万m2/年と合わせて9100万m2/年の能力にする。投資額は約60億円である。

 今回クラレ玉島に導入する設備は,2005年8月に増強した設備と同様,大型液晶パネルに対応した幅広フィルムが製造できるとする。また性能を改善したPVAフィルム「VF-PE」にも対応する(後述)。

 また二番手の日本合成化学工業も4月28日,生産能力1500万m2/年の偏光板用PVAフィルムの生産設備を熊本工場に増設する,と発表した。この結果,2007年12月の稼働時には,同社の生産能力の合計は現在の1.6倍の4000万m2/年に拡大する計画だ。

 同社は2002年に大垣工場に1200万m2/年の生産ラインを稼働し,2005年8月には第2系列の1300万m2/年の生産ラインを稼働させていた。今回の熊本工場への投資額は,本体設備が35億円,付帯設備,環境整備費用が5億円とする。

クラレ,加工性と光学特性を改良した新ポリマー開発

クラレは,液晶ディスプレイの偏光板向けに,加工性と光学特性を改善したPVA系新ポリマー「VF-PE」を開発した。高輝度と高コントラストが要求される大型液晶テレビ向けに,既にサンプル出荷を開始している。2006年春から本格事業化をスタートした。

 「VF-PE」は,PVAをベースにある疎水性のモノマーを共重合させたものだという。詳細は明らかにしないが,こうしたコポリマーとすることによって,従来のPVAホモポリマーから成る偏光フィルムと比べて,延伸が容易で切断しにくいという優れた加工適性を持ちながら,偏光性能などの光学性能を大幅に改善できたとしている。

 同社によると,近年ユーザーサイドからは特にテレビ向けに液晶ディスプレイが大型化するにともない,偏光特性を改善することによって高輝度や高コントラストを達成したいという要望が寄せられるようになった。加えて,大型化により加工も難しくなってきている。今回開発した新偏光フィルムは,こうした要望に応え,特に40型以上の液晶テレビの高性能化に貢献できるものだとしている。

ニュース・関連リンク

日本合成化学が偏光板素材のPVAフィルムを1.6倍に増産

(Tech-On!,2006年4月28日)

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(Tech-On!,2006年3月14日)

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(Tech-On!,2006年2月2日)

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(Tech-On!,2005年12月9日)