これがオリンパスが見せた手術支援ロボット

「早く上市したい」と笹社長

2015/06/08 00:00
大下 淳一=日経デジタルヘルス

 「早く上市し、患者の役に立ちたい」(オリンパス 代表取締役社長の笹宏行氏)――。オリンパスは、ロボット技術を使った手術支援機器2品種を開発。2015年6月3日に福島県郡山市で開催した「手術支援ロボティックシステムの開発成果発表会」で試作機を披露した(pdf形式の関連リリース1)。製品化を前提にした手術支援ロボットを同社が発表するのは、今回が初めて。

オリンパス代表取締役社長の笹宏行氏(左)と福島県知事の内堀雅雄氏(右)
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 披露したのは「消化器内視鏡治療支援システム」と「電動多自由度腹腔鏡」の2品種。いずれも「低侵襲治療の普及と発展のために欠かせない技術」(オリンパス 専務執行役員の田口晶弘氏)と位置付ける。医薬品医療機器等法の承認を得ておらず製品化時期は未定だが、「量産に対応できるシステムで、製品化への取り組みを加速する」(笹氏)。医療用内視鏡の関連機器(光源や画像処理装置)の開発・製造拠点である同社 白河工場など、福島県内の拠点で量産する計画だ。

 福島県が2012~2014年度に実施した「国際的先端医療機器開発実証事業費補助金」において、同県から12億円の支援を受けて開発したもの。同県が6月3日に郡山市で開催した「医療関連産業集積プロジェクト 研究開発補助金 成果報告会」に合わせて発表した。

福島県での開発・量産を計画

オリンパスの田口氏
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 発表会に登壇したオリンパスの笹氏は、治療機器にロボット技術を導入することで「治療の安全性が高まるとともに、従来はできなかったことができる。(製品化に必要な)許認可を含めてしっかりした体制で臨む」と話した。

 オリンパスは目下、白河工場と、医療用内視鏡の開発・製造拠点である会津工場に新棟を建設中で、投資総額は「200億円を超える」(笹氏)。従業員の増員も予定しており、今回発表した手術支援ロボットの製品化開発に向けては「3年間で12人程度の雇用を見込んでいる」(田口氏)という。

 発表会には福島県知事の内堀雅雄氏も駆けつけ、「世界最先端の医療機器が白河工場など、福島県内で生産されていることは我々の誇り。県の復興にもつながる」と述べた。福島県は2013年の医療機器生産金額で1245億円と国内第3位。生産金額は2005年比で約2倍に増えたといい、「屈指の医療機器生産県になった」(内堀氏)。

福島県内の2拠点を拡張中
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コンソールで遠隔操作

コンソール側から見た消化器内視鏡治療支援システム
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 発表した2品種のうち、消化器内視鏡治療支援システムは、内視鏡を肛門から消化管に挿入し、消化管内でがんなどの病変を切除する手術に向けるもの。開腹手術に比べて低侵襲での治療が可能だ。

 このシステムでは、2本の多関節処置具(把持鉗子と高周波ナイフ)および内視鏡を組み合わせて消化管内に挿入。モニター画面を見ながらコンソール(操作台)で処置具を遠隔操作し、3つの関節を自在に動かす。粘膜内にとどまった早期大腸がんの手術などに使う内視鏡的粘膜下層はく離術(ESD:endoscopic submucosal dissection)に向くという。

内視鏡と処置具を融合
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処置具の関節が自在に動く

3関節が自在に動く構造をした処置具
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 従来の消化器内視鏡治療では、挿入した内視鏡を動かして処置を制御していた。今回のシステムは内視鏡を固定した状態で治療できることに加え、処置具が備える3つの関節が自在に動く構造をしていることから「治療の操作性が高まる」(オリンパス)。これにより、患者への負荷を減らしたり、治療時間を短くしたりできるという。コンソールで術者が操作するアームの形状を処置具と相似形にすることで、手元での操作と処置具の関節の動きを連動させやすくした。

 オリンパスはこれまでに、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトで「インテリジェント手術支援ロボット」を開発した実績がある(関連リリース2)。同ロボットは現時点で製品化していないが、今回の開発にそのノウハウを生かしたという。今回披露した消化器内視鏡治療支援システムは「確実に製品化を見据えて開発を進める」(オリンパス)としており、試作品に近い形の製品に仕上がる見込みだ。

センサーを活用し対象を追従

先端が電動で湾曲し、対象を捉え続けられる電動多自由度腹腔鏡
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 一方の電動多自由度腹腔鏡は、開腹手術に比べて侵襲度が低い「腹腔鏡手術」に向けるもの。体表の何カ所かに穴を開け、そこから内視鏡(腹腔鏡)と処置具を挿入して胃や大腸、肝臓の腫瘍などを摘出する手術だ。今回の試作品には、この手術中に術者が見たいと思う部位を、常に視野から外すことなく捉え続ける機能を搭載した。内視鏡には3D対応品を採用している。

 この追従機能は、腹腔鏡の操作部近くに取り付けた「センシングユニット」と、先端部に設けた電動式の「湾曲部」で実現する。腹腔鏡の位置や姿勢(傾斜角度や回転角度)をセンシングユニットで測るとともに、3D内視鏡を使って対象との距離を三角法で計測。これらの情報を基に、観察対象を視野に捉え続けるように湾曲部が前後左右に最大90度、自動的に曲がる仕組みを採り入れた。

腹腔鏡の位置や姿勢を検知し、湾曲部を電動制御
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手術中の連携を支援

電動多自由度腹腔鏡を支持する「スコープホルダー」も開発した
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 観察したい部位を腹腔鏡の画面中央に捉えた時に「ロックオン」機能を起動。これにより、腹腔鏡をその後どのような角度に動かしても、自動制御された湾曲部の動きによって腹腔鏡はロックオンした対象を捉え続ける。

 腹腔鏡手術では一般に、処置具と腹腔鏡を別の医師が操作するため、両者の高度な連携が欠かせない。今回の腹腔鏡はロボット技術を利用してその連携を支援する。製品化時期は未定とするが、「できるだけ早い時期に臨床用モデルを開発したい」(オリンパス)考えだ。