メガソーラービジネス

<第27回>「『保留』でも太陽光の拡大は続く、FIT後は自立的に成長」、ブルームバーグNEF・アナリスト

メガソーラービジネス・インタビュー

2014/11/12 00:00
金子 憲治=日経BPクリーンテック研究所

ブルームバーグ・ニュー・エナジーファイナンス(BNEF)は、世界の再生可能エネルギーの動向を分析し、ビジネスの視点から、その市場性や成長性を予測していることで知られる。BNEFの駐日代表として、日本のエネルギー市場を分析しているアリ・イザディ氏と、日本の再生可能エネルギー分野の分析を担当している川原武裕氏に、再エネ設備の「接続保留」を踏まえた日本の太陽光発電の現状と市場動向について聞いた。

――九州電力などが、再生可能エネルギーの接続申し込みの回答を保留しました。こうした事態に至った固定価格買取制度(FIT)による再エネの状況をどのように見ていますか。「保留」によって、太陽光発電ブームは終わったとの悲観論さえあります。

BNEF まず、一部の電力会社による「保留」という措置によっても、太陽光発電設備の需要が小さくなることはなく、ここ2~3年、最低でも年に10GW以上の導入が続きます。2015年の国内における太陽光導入量は、保守的な予測で11.4GW、楽観的な予測では13.2GWとみており、2016年はそれ以上の導入量を予想しています(図1、図2)。「保留」によって、太陽光関連設備の市場は、影響しないと考えてよいでしょう。

図1●日本の太陽光発電設備の導入量予測(楽観的)(単位:GW)
(出所:ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス)
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図2●日本の太陽光発電設備の導入量予測(保守的)(単位:GW)
(出所:ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス)
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「来年、再来年は太陽光発電の拡大は続く」

ブルームバーグ・ニュー・エナジーファイナンス(BNEF)のアリ・イザディ駐日代表

 九州電力などが「保留」に踏み切ったにもかかわらず、足元の太陽光発電市場が伸びていく背景には、太陽光の設備認定量と、実際に稼働した容量に大きなギャップがあるからです。経済産業省が公表した7月末のデータでは、太陽光の設備認定は全国で69GWに達しています。一方で、稼働した設備は10.9GWに過ぎません。

 九州電力管内で見れば、設備認定量は17.9GWに達する一方、稼働したのは2.4GWに留まっています。17.9GWという設備容量は、九電のピーク需要(2014年)の110%にもなります。需要を超えて発電できないので、さすがにこの認定量をすべて接続するのは難しいでしょう。しかし、現時点の稼働量は2.4GWに過ぎず、これは九電管内の低負荷期の昼間需要である8GWと比べ、まだまだ受け入れる余裕があります。来年、再来年までは、太陽光発電設備の需要は拡大していきます。これは九州以外の地域でも同様です。

 すでに電力会社から系統接続の回答を受け取っている事業者はまったく心配ありませんし、設備メーカーの立場からは需要は拡大していきます。「保留」によって問題になるのは、連系承諾通知を受け取る前に、事業用地を確保したり、造成してしまったりした発電事業者です。これは報道されているように、経営的には厳しい状況になることもあるでしょう。

――電力会社の「保留」措置によって、BNEFでは中長期的な太陽光発電設備の導入予測を下方修正しましたか?

ブルームバーグ・ニュー・エナジーファイナンス(BNEF)・川原武裕アナリスト

BNEF 「保留」措置の発表前後で、市場予測は変えていません。というのは、もともと設備認定された案件のすべてが稼働するとは見込んでいなかったからです。土地取得や系統接続の制約を加味した上で、予測していました。接続保留も系統制約の1つですから、すでに折り込んでいたとも言えます。

――実際に稼働するのは、設備認定された容量のうちの何割ぐらいと見込んでいますか。

BNEF おおそよ50%です。逆に残りの50%は稼働しないとみています。こうした予測の根拠は、四半期ごとの太陽光発電設備の出荷実績と昨年の傾向を比較しつつ、1MW以上の案件については、報道や独自の情報ソースを元にデータベースを作り、アンケートなどから進行状況を調査しています。 

FIT後には、年間4~5GWの持続的な需要に

――2017年以降、太陽光発電設備の導入量をどのように見込んでいますか。2017年以降も、「保留」の影響はないのですか。

BNEF FITでは、開始から3年間を「発電事業者の収益に特に配慮する」とし、いわゆるプレミア期間とされました。2015年6月で、それが終わります。その後、太陽光発電の買取制度は、廃止されるか、買取価格が大幅に下がるとみています。その結果、2015年をピークに太陽光発電設備の導入は減少しますが、それでも年間4GW程度の導入は続き、2020年以降は、再び増加に転じ、年間5GW程度の市場として安定するとみています(図3)。

図3●日本の発電設備容量の増加見通し(単位:GW)
(出所:ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス)
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――FITに頼らずに、自立的に年間4~5GWの市場が続くということですか。

BNEF そうです。FITなど太陽光発電設備への補助金がなくなっても数年すると、平準化発電コスト(LCOE:設備費や維持費、設備利用率などを加味したトータルの発電コスト)がもう一段劇的に低下します。これはドイツやオーストラリア、米カリフォルニア州など、FITなど補助制度の導入が早かった国々で共通して見られる現象です。補助制度のある間は、発電事業の収益性が高いので、設備コストは下げ止まります。補助制度がなくなると、思い切ってコストダウンしないと設備が売れません。

 このもう一段のコスト削減努力によって、国内でも太陽光発電のコストが大幅に下がります。日本の電力料金単価を考えれば、家庭用や商業用の電気代より安くなり、500kW未満程度の屋根上設置など、需要家設置の自家消費型(余剰買取型)太陽光発電は経済性が出てきます。ただ、それでも、全量売電を前提とした「電源」としてのコスト競争力は火力発電などに及ばないので、野立てのメガソーラー(大規模太陽光発電所)の設置はほとんどなくなるでしょう。

――日本では人件費が高いので、これ以上、設置コストは下がらないとの見方もあります。

BNEF それもよく聞かれる質問ですが、ドイツやオーストラリアは、日本と同程度かそれ以上に人件費が高い地域です。そうした先進国でも、さまざまな工夫によって太陽光発電の設置コストは大幅に下がり、市場は自家消費型に移行しています。

自家消費型増加で東電と九電の売り上げ減少も

――太陽光の自家消費が増えると、電力ビジネスはどのように変わりますか。

ブルームバーグ・ニュー・エナジーファイナンス(BNEF)・川原武裕アナリスト

BNEF まず、電力会社の電力販売量が減っていきます。現在でも、余剰買い取りの家庭用太陽光によって家庭向け販売量が減っていますが、それが商業用でも起こります。国内でその影響が大きいと予想されるのが、東京電力と九州電力です。太陽光発電設備に関して、県別に設備認定された容量をその県の面積で割ると、「単位面積当たり設備量」が算出できます。その数値が相対的に大きいのが東電と九電管内なのです。それは、今後、自家消費型の分散電源が増えていった時に、設置量が大きくなる可能性を示しています。

 自家消費の太陽光を設置する需要家が増えるほど、電力会社からの受電量が減ります。その地域の電力会社の販売量は減り、収益も低下します。単なる電力販売から脱するような新たなビジネスモデルが必要かもしれません。実は、この問題はドイツやオーストラリアではすでに顕在化しており、電力会社は事業改革を迫られています。

――太陽光パネルメーカーの事業モデルにも影響しますか。

BNEF FIT後の自家消費型市場では、コスト削減の圧力がますます高まり、コスト競争力のある中国メーカーに有利です。ただ、国内の自家消費型市場を考えると、需要家との関係作りに強い国産メーカーが、O&M(運営・保守)や今後の電力システム改革とも絡めたソリューションビジネスとしてアプローチした場合、海外メーカーより強みを発揮できる可能性もあります。

日本製パネルのバンカビリティは中国製より低い

――国産メーカーは、「品質」で差別化して、日本のFIT終了後に海外市場で伸びることは可能ですか。

ブルームバーグ・ニュー・エナジーファイナンス(BNEF)のアリ・イザディ駐日代表

BNEF BNEFが海外の大手太陽光EPC(設計・調達・施工)サービス事業者と技術評価機関の17社に太陽光パネルのバンカビリティ(融資適格性)の高さについてアンケート調査したところ、トップは米ファースト・ソーラーで、2番手には韓国ハンファソーラーワン、中国JAソーラー、中国トリナ・ソーラー、中国インリーグリーンエナジーが続くという結果でした。パナソニックやシャープ、京セラ、三菱電機の国産大手4社は、こうした米韓中の大手パネルメーカーの次にランクされています。バンカビリティの高さは、技術的な評価が高いことを意味しています。国内では日本メーカー製パネルのバンカビリティは海外製に勝りますが、海外では逆になっています。

――国産メーカーは、ここ数年、国内市場の急拡大で海外市場に提供する製品を減らしてきたことが、存在感の低下につながっているのでしょうか。

BNEF 中国大手メーカーは、ここ数年で見ても、生産量を2倍程度に伸ばしており、量産効果からコスト競争力をいっそう高めています。海外市場で単にコスト競争するのではなく、EPCやO&Mを含めたビジネスモデルを構築しないと、収益性は高まらないでしょう。日本メーカーもすでにそうした戦略を掲げていますし、今後、市場が拡大するアジアは、伝統的に日本メーカーが強い土壌でもあります。日本企業にも海外市場開拓の余地はあると思います。