第3回 「一石三鳥」で電気自動車/プラグインハイブリッド車普及に成功したオランダ

2014/11/12 00:00
国吉 浩=独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構

 今回はオランダが、電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)の普及に成功した理由を紹介しよう。オランダと、本連載の第1回で紹介したノルウェーとでは、EV、PHEVの普及に関して3つの違いが挙げられる。

  • オランダはノルウェーと異なり、2台目の自家用車(セカンドカー)を持つ習慣がない
  • カンパニーカー(一定条件のもと社用車を自家用車同様に使える)制度がある
  • PHEVもEVとほぼ同等の優遇施策(インセンティブ)を受けられる

 バカンスシーズンに年に1~2回の遠出をするオランダの人々にとって、長距離走行を苦手とするEVだけを保有するのは、なかなか勇気がいることだ。一方で、同国は国土が狭く人口密度も高いので、2台目の車を保有するのは経済的でない。そこで登場したのがPHEVだ。オランダではPHEVもEVと同等の優遇施策を受けられたので、2012年初頭から順調に台数を増やしていったのだ。2013年末、三菱自動車工業「アウトランダーPHEV」とボルボ「V60」が同国で発売されたことで、普及にますます弾みがかかることになった。ところがこの間に優遇施策の変更はなかった。すなわち魅力的な車両が市場拡大を牽引したのだ。

 欧州では、企業が従業員への福利厚生の一環として、社用車を従業員に自由に使わせる「カンパニーカー」という制度が普及している。これは通勤だけでなくレジャーなどにも利用可能な車だ。福利厚生という性質上、企業から付与されるカンパニーカーの車両価格の25%は、従業員の個人所得税の課税対象とされる。オランダではEV、PHEVをカンパニーカーに採用した場合、個人所得税の課税対象から免除することを決めた。個人所得税が時に50%を超えることで有名な同国である。従業員の立場から見れば、これはとても大きなインセンティブだ。車両を購入する企業にとっても、EV、PHEVの車両価格の36%が環境フレンドリー投資として経費に算入できる。利益を計上している企業にとって、カンパニーカーでのEV、PHEV優遇施策は、節税と従業員満足と環境イメージの向上を同時に図れる、まさに「一石三鳥」の施策だったという訳だ。

アムステルダム市内の充電スタンド
標識の両側にEVが駐車可能
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 さらにオランダの特徴として、充電器設置への補助がEVだけでなくPHEVに対しても行われている点も見逃せない。欧州を旅したことのある方は、街中の道路に所狭しと路上駐車が並ぶ光景を目にしたことがあるだろう。実はアムステルダムなど都市部では、市民は路上駐車の権利(証書)を自治体から貸与されている。しかし、自動車の数に比べて道路スペースが圧倒的に足りないため、民家の前など便利な路上駐車スペースは、高い倍率の抽選を経なければならない。EV、PHEV購入者はこの権利を最優先で与えられるだけでなく、充電器まで自治体が設置してくれるのだ。この充電器は二股になっていて、その隣にEV、PHEVを駐車すれば簡単な手続きで誰もが利用可能となる。

ビルの地下駐車場にCar2Go(EVカーシェア)の駐車場が整備されている
この日は全て貸出中
 

 オランダ全土の充電器は、自治体や運営者が異なっていても「ローミング」と呼ばれる仕組みで誰もが利用可能。ちょうど携帯電話の「国際ローミング」と同じ仕組みだが、費用は月10ユーロ強と格安だ。街中は普通充電器が設置されるが、高速道路沿いにはサービスエリア毎に急速充電器が整備されている。近年はEV、PHEVの増加に伴い、民間事業者も次々にローミング事業に参入している。

 オランダはこのような仕組みで、PHEVの普及とともに加速度的に充電インフラの整備を進めることに成功した。現在ではオランダ全土に整備された充電インフラのおかげで、PHEVはもちろん、EVであっても安心して国内のドライブが可能だ。

表 オランダにおける電動車関連の優遇施策例
オランダ政府の施策
税制優遇
(CO2排出量が50g/kg以下の車両が対象)
・従業員にカンパニーカーを与える場合、車両価格の25%が個人所得税の課税対象となるが、EV・PHEVは免除
・車両価格の36%を「環境フレンドリー投資」として経費参入可能
・自動車税の減免(車両価格に対してガソリン車が最大25%に対し、EV・PHEVは7%)。
・毎年の道路使用税(自動車重量税に相当)の免除。
自治体の施策(下記はアムステルダム市の例)
EV購入補助金 ・個人事業者(個人請負など含む)への補助金
・乗用車:5000ユーロ
・タクシー:10000ユーロ
・トラック:40000ユーロ
EVカーシェアリング推進 ・Car2Goと呼ばれるEVのカーシェアリングが2011年よりサービス開始。300台のカーシェア用EVが利用可能
・29セント/分、14.9ユーロ/時間、59ユーロ/日
路上駐車の権利抽選での優遇 ・路上駐車スペースの利用権が、ガソリン車と比べて早く認可される
普通充電器の設置 ・上記と合わせて、自治体が路上に普通充電器を設置
充電時には非接触ICカードで認証
ロゴは対応するローミング事業者
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日産リーフのEVタクシー
市の購入補助により急速普及
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 第2回で紹介した天然ガス自動車(NGV)の事例と、ノルウェーやオランダの成功事例を見れば、市場を立ち上げるための補助金施策だけでなく、それと同時に使いやすい充電インフラの整備を加速する施策をセットで実施することが、普及の持続可能性に非常に重要であることが分かるだろう。しかし、ここで各国の政策関係者が頭を悩ませる問題がある。それはEV、PHEVの普及があって充電インフラ整備が加速するのか、それとも充電インフラがあるからEV、PHEVの普及が加速するのか、その普及の順序である。これはまさに、「鶏が先か、卵が先か」という問題だ。次回はEV普及におけるこの「鶏と卵」の問題を取り上げたい。

国吉 浩 (くによし ひろし)
独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
理事/エネルギー・環境本部長
1984年通商産業省(現経済産業省)入省後、エネルギーや技術に関する様々な政策を企画・実施してきた。国連工業開発機関(UNIDO)の事務局長補佐官や東京工業大学教授など、経済産業省以外でも活躍。現在は、NEDO理事兼エネルギー・環境本部長として、スマートコミュニティをはじめ、エネルギー・環境関係の技術開発や実証事業を推進している。JSCAの事務局長でもあり、GSGFの副議長を務める。1958年生。東京大学工学部電気工学科卒業、ケンブリッジ大学修士(国際関係論)、京都大学博士(エネルギー科学)。関西学院大学客員教授。

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